第88章―11
そんな状況で、この世界の宇宙探査は進捗していたが、その一方で、宇宙飛行士の数も徐々に増えており、1621年現在、30名近い宇宙飛行士がトラック基地に滞在するようになっていた。
最も体力的な問題から、その内の7割程が男性になっていて、女性が少数派になっている。
(どうのこうの言っても、宇宙飛行士になるのには、それなり以上の体力が必要であり、女性の身では色々と難しいのが、この当時の宇宙技術の現実だったのだ。
更に言えば、宇宙飛行士の多くが軍人出身であり、この1621年当時、日本を始めとする各国の軍内部においては女性が少数派であったのも、女性の宇宙飛行士が少ない事態を招来していた)
そして、宇宙というより、月面到達を目指す問題(月に向かう司令・機械船と着陸船に乗船できるのは3人)から、基本的に3人のチームを組んで、宇宙飛行士は編成、訓練される事態が起きていた。
幾ら人格、識見が優れた人材を集めているとはいえ、どうしても仲の悪い人間関係が生じるのは、ある程度は止むを得ない事態である。
更に言えば、いざという時、具体的には宇宙空間で、その人間関係が爆発してしまっては、文字通りに宇宙飛行士の死を招く事態が起きてしまう。
だから、予め3人のチームを組んで、人間関係に問題が完全にないことを見極めた上で、月面到達を目指す事態が起きていたのだ。
(尚、どの国が月面到達の際に優先された、と後で各国の世論等から非難される問題が生じないように、日本、北米共和国、ローマ帝国、それ以外の国の4つのグループが造られて、そこから個別に3人のチームが選ばれる事態まで起きていた。
幾ら何でも、気の使い過ぎ、という批判の声が無かった訳ではないが。
そうは言っても、表向きは世界協働で月面到達を目指すという建前がある以上、チーム内の3人の国籍は完全に違えておかないと、後々で批判者が出てもおかしくないのが、現実というものだった)
そして、1621年現在、そういった宇宙飛行士のお互いの中で、最も注目を集めている存在といえたのが、池田茶々とテレシコワ、ライドの女性トリオだった。
これは幾つかの要因が絡み合って生じた事態だった。
まず、3人の外見が極めて印象的だったのが大きい。
言うまでもないことかもしれないが、池田茶々は池田輝政と督子の間の娘である。
そして、輝政は生粋の日本人だったが、督子は徳川家康と金髪碧眼の白人の愛妾との間に生まれた娘であり、目は黒かったが、髪は完全に茶髪だった。
更にその血を承けた茶々は、肌こそ黄色人種で、目も黒かったが、髪は茶色掛った女性だった。
又、テレシコワはローマ帝国、それもロシア地域の出身であり、純粋な白色人種だったが。
ライドはというと。
「えーっ、黒人の血が4分の3で白人の血が4分の1なの」
「純粋な黒人と考えていたのに」
池田茶々とテレシコワは、ライドと初めて語り合った際に驚くことになった。
実際にライドの外見だが、言葉は悪いが典型的な黒人種の容貌である。
「テレシコワはともかく、北米共和国出身の母を持つ茶々がそんなことを言うの」
とライドは冷たく茶々に言い放った。
ライドにしてみれば、北米共和国では人種を越えた男女関係が当たり前になっている。
そして、茶々の母の督子は北米共和国出身者で、その体現者の一人でもあった。
ライドの言葉に、茶々は自らの血筋を思い起こし、ライドに平身低頭して謝ることになり、ライドは茶々の態度から素直に許したのだが。
その後で、ライドが茶々は徳川家康の孫娘で、現北米共和国大統領の徳川秀忠の姪であることを知り、逆に茶々に頭を下げることになった。
だが、この一件から3人は打ち解けたのだ。
現実の米国の宇宙飛行士のライドとは違い過ぎ、と言われそうですが。
この世界のライドは黒人の血が濃い家系になります。
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