第88章―10
ガリレオとケプラーの会話は、更に続いた。
「月面到達計画が最優先だから仕方がないが、それが終わり次第、木星や土星に無人探査機を送ることになっているな。1620年代中には送り届けるとのことだから、自分達はそれを見られるだろうが、どれだけのことが分かるだろうか」
「本当にどれだけのことが分かるか、想像ができない。それこそ、木星に土星のような環があっても、自分は驚かないな」
「確かに木星や土星となると、地球からの観測では本当に分からないことが多いからな」
「そもそも木星から電波が出ている、と誰が予想できた。「皇軍知識」でさえ、それには触れていないのだぞ。「皇軍知識」で驚いていたら、更に驚かされる事態が起きた訳だ」
「それを言ったら、キリがない話になりかねないがな」
実際、(この世界の)1620年代後半に木星と土星に無人探査機が到達し、木星の環が発見される等、多くの天文学者が驚倒する事態が起きることになる。
二人の会話は、結果的にそれを予言していた。
「そして、天王星や海王星、冥王星になると、無人探査機がたどり着けるのは、何時になるのやら」
「そもそも「皇軍知識」によって、それらの惑星は知られることになったものだからな」
「肉眼ではとても見えない惑星だ。師になるブラーエが、「皇軍知識」から教えられて、更に天体望遠鏡で実際に見て、それぞれの惑星を確認した際には、衝撃の余りに、いつも気を失った、と自分達に語ったな。そんな惑星が存在する筈が無い、と想っていたら、実際に望遠鏡で見てしまったのだから。天体望遠鏡が、本当に悪魔の産物ではないか、とまで自分は疑いたくなった、と言っていた」
「自分も、日本由来の星図等を入手して、更に天体望遠鏡で観測した際には、似たようなことをやらかしたよ。我に返ったのは三日後で、その間の記憶は殆ど無くて、周囲の人に言わせると、完全に発狂したように夜になると星を探し求め、昼には寝ていたらしい」
ガリレオとケプラーの会話は、初期の頃に何時か移っていた。
それを聞いた周囲は、時の流れの激しさを感じた。
「他にも小惑星や彗星等、太陽系内には幾つもの天体があるな。それを何処まで調べられるだろう」
「彗星と言えば、ハレー彗星だな。1607年に現れた時には大騒動になって、自分も含めて多くの天文学者が熱心に観察した。あの時に、無人探査機を送り込めていればなあ。そもそも人口衛星を打ち上げられたのが、その直前だったし、無理なのは分かっているのだが」
(この世界で、初めて人工衛星が打ち上げられたのは1605年)
「「皇軍知識」に基づいて預言されていた大彗星だな。次に地球に近づくのは、1682年になるらしいが、その際には更に知識が深まっているだろうし、ほぼ確実に無人探査機を送り込めるだろう」
「自分達が亡くなった後の話になるのは確実だが、本当に何処まで分かるかな」
二人の話は、更に深まった。
「本当に調べたいことが多すぎて、幾ら金やモノがあっても足りそうにないな。取り敢えずは、まずは月の詳細を調査した上でのことになる、と割り切らねばな。後、金星や火星についても、自分達が生きている間に少しでも知りたいものだ」
「全くだ。まずは月を目指せねば。その為に多くの金やモノ、更には宇宙飛行士を始めとする多くの人が奮闘しているのだからな。余り、それ以外のことに目を向けていては失敗の下だ」
ガリレオとケプラーの会話は、それで一旦は終わったが。
周囲の面々も含め、ガリレオもケプラーも考えざるを得なかった。
まずは月、それでさえ困難なことは分かっている。
それ以上のことは、更に困難が増すだろう。
だが、何とかしたいものだな。
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