第88章―7
月面到達用の三段式ロケットの製造でさえ、これだけのゴタゴタが引き起こされる代物だった。
他の月面到達用の司令・機械船と着陸船にしても、実際に開発、製造するとなると、多大なゴタゴタが生じるのは当然としか言いようが無かった。
尚、司令・機械船と着陸船だが、密接に関連する代物である。
こうしたことから、司令・機械船は北米共和国が主に、着陸船は日本が主に開発、製造することになったが、その過程では頻繁に連絡を取り合った上での開発、製造が当然に行われることになった。
さて、少なからず話を違えることになり、そもそも論にもなりかねないが、何故に着陸船はともかくとして、司令・機械船という名称が月面到達に必要な機体に用いられているのだろうか。
これは司令・機械船がその必要性から、二つの部分から成り立っているという事情が大きい。
まず、司令船だが、宇宙飛行士が滞在し、宇宙船を操縦し地球に帰還させるために必要なすべての制御装置が搭載されている部分から成り立っている。
機械船は、推進用の大きなロケットエンジン1基と姿勢制御用の小ロケットエンジン16基及びその燃料、更に宇宙滞在中に必要な酸素、水、バッテリーなどの消耗品などを積載する部分で成り立っている。
更に言えば、司令船部分は地球に帰還するが、機械船部分は大気圏再突入時の高温・高圧力で大気圏内で破壊され、消滅するという前提で建造されている。
こうしたことから、司令・機械船と呼称される事態が起きているのだ。
尚、司令・機械船の総重量だが、燃料等を含めれば約30トン近い代物になった。
そして、月面への着陸船だが。
本当に開発、製造には苦労する羽目になった。
着陸船の重量について、当初の要求は9トン以下に収めることだったのだが。
実際に開発、製造して見ると、そんな軽量では着陸船の性能を満たせないのが、すぐに明らかになる事態が起きてしまったのだ。
それこそ実際に製造された着陸船は、最終的には燃料等を含めてのことになるが、約15トンの重量に達する事態が起きた。
(細かいことを言えば、約15トンの着陸船の内、約10トンは月面に残されたり、燃焼で失われたりすることになり、約5トンが司令・機械船と再結合を果たすことになる)
それでも、重過ぎるとして、様々な軽量化が図られた結果として、0.025ミリ厚のアルミ板のみで外の真空と隔てられている部分さえ、着陸船にはある事態が生じてしまった。
又、月面で着陸船を安定させるための脚も、当初の計画では5本だったのだが、4本に減らされる事態が生じることになった。
幾ら月面の重力が小さいとはいえ、又、軽量化を図る必要があるとはいえ、と様々な批判が巻き起こったが、現実問題として、月面到達用のロケットを開発、製造する側も、文字通りにギリギリまで努力した結果として、やっとの思いで着陸船を15トンまで拡大し、開発・製造して運用する事態だったのだ。
如何にこの世界の1620年前後に、月面に人類を送り届けようと言うのが、かなり無謀に近い話なのが、分かる話に他ならない。
もし、安全面を重視するならば、更なる月面到達用の大型ロケットを開発し、更にはそれに合わせた司令・機械船や着陸船を開発、製造することになるのは必至だった。
そうなれば、それこそ10年以上先の話、1630年代に人類初の月面到達という事態が起きてもおかしくない状況だったのだ。
そうした状況にあったが、一度、1620年に人類初の月面到達、という目標が掲げられた以上は、何としても実現すべきだ、というある意味では悪い日本人気質が発揮された結果として、この世界は人類初の月面到達を目指す事態が起きたのだ。
手抜きと言われそうですが、この辺りの司令・機械船と着陸船のエピソードは、史実のアポロ計画をほぼ参考にしています。
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