第88章―1 人類初の月面到達までの道程
新章になる第88章の始まりです。
1621年初め、池田元助は様々な心労から胃潰瘍を患った果てに、既に胃を半分失っていたのだが、更に胃潰瘍が酷くなりそうな事態が起きていた。
本当にいい加減にしてくれ、と様々な方面に愚痴ってはいたが、その愚痴が周囲に受け入れられているのか、というと。
それこそ元助の直属の上司である上里秀勝にさえ、
「まあ、頑張ってくれたまえ」
と慰めにもならない言葉が、元助の愚痴に対しては掛けられる状況になっていた。
さて、何故に元助が愚痴り、秀勝らが慰めにもならない言葉を元助に掛けるのか、というと。
「伯父様、私は何としても月面に第一歩を記してみせます。伯父様も協力してください」
「言いたくはないが、幾ら姪とはいえ、自分から身内贔屓はできないぞ。それならば、第1位の成績を修めて、周囲に才能を認めさせることだ」
「そんなの当然です」
池田元助からすれば姪になる、池田輝政と督子の間の長女の茶々が、日本海軍航空隊の航空士官から宇宙飛行士への転職希望を果たして、トラック基地に赴いていて、伯父に直談判していたのだ。
更に言えば、茶々は色々とあった末に、様々な縁から勧められた縁談から逃げ出す為に、トラック基地に赴いていたという事情もあった。
茶々は言うまでもないことだが、徳川家康の次女の督子の娘であり、それこそ千江皇后陛下の従姉に当たる身であり、徳川秀忠の正妻の小督とも縁がつながるのだ。
そうしたことから、小督の姉の初が嫁いでいた京極高次の甥になる京極高広との縁談が、茶々には持ち上がることになった。
(尚、この世界では京極家は、ローマ帝国内に住んでおり、本編中で描写はされていないが、その一族はローマ帝国内で文官、高級官僚を輩出していて、そう言った点でも釣り合う縁談であった)
だが、茶々は母方祖父等の血を承けたせいか、女だてらに海軍士官の路を選んだ女性であり、高広とお見合いをした際に、自分と高広は合わない、と縁談を拒む姿勢を示したのだ。
その一方で、高広は茶々を気に入って、結婚したいと言う事態が起きた。
更に言えば、どうのこうの言っても、この世界は基本的に男性優位の社会である。
(又、この縁談は、エウドキヤ女帝からも承認された縁談であり、高広にしてみれば、この縁談が調わねばエウドキヤ女帝の機嫌を損ねるのでは、と忖度せざるを得なかった。
尚、エウドキヤ女帝自身は、よくある臣下の縁談承認だとして、実は全く気にしていなかった)
だから、茶々がこの縁談を拒んでも、周囲は高広が結婚したいと言う以上、この縁談を受け入れるべきだ、と輝政や督子までも言う事態が起きた。
とはいえ、茶々としてみれば、断固、お断りするという縁談である。
そのために茶々は考えた末に宇宙飛行士を希望して、トラック基地に赴く事態が引き起こされたのだ。
伯父の元助に対して、
「幾ら何でも宇宙にまで、追いかけて来る男はいませんから」
と初対面時に茶々は言い放ったが。
元助の下には、輝政や督子を始めとする様々な面々から、
「何としても茶々を説得し、高広と結婚させて、京極家に嫁入りさせてほしい」
という硬軟織り交ぜた依頼が、度々ある現実がある。
それで、元助は茶々に高広と結婚するように説得しようとしたが、様々な用事を作っては、茶々は元助から逃げ回った。
更には、ローマ帝国の宇宙飛行士のテレシコワや、北米共和国のライドといった女性宇宙飛行士と、何時か茶々は仲良くなってしまい、テレシコワやライドまでが茶々の味方になって、元助の妨害をするようになってしまった。
元助は既に半分失った胃が更に失われそうな予感がしつつ、姪の我が儘に悩み、頭を抱え込む日々を、トラック基地で送る羽目になっていた。
池田茶々はともかくとして、ライドとテレシコワについては、史実の米ソの宇宙飛行士から名前を借りることにしました。
尚、ライドに関しては、史実とは完全に異なる家系として、この後で本格的に登場します。
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