第87章―4
そんなことが、1621年9月の入内の儀の日の夜に、織田邸ではあったのだが。
そんなこととは関わりが無いように、時が流れていくのも現実だった。
そして、今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子は、美子が既に30歳になっていることから、速やかに皇統を継ぐべき男児を得ようと考えてオギノ式を駆使して関係を持つと共に、今上陛下にまで秘密にして美子は排卵誘発剤を使用した結果として。
1622年3月末に、美子は呆然とする事態に陥って、更に自ら侍医団に問い質す事態が起きていた。
「本当に間違いないの」
「本当に間違いありません。だから、排卵誘発剤は止めておくべきだと申し上げました」
侍医団全員が頭を抱え込みそうになりながら、美子に答えていた。
今上陛下の子を美子は無事に妊娠したのだが多胎妊娠では、と推測される事態が起きてしまったのだ。
この時期で考えるならば、双子にしても大きすぎる、最大で六つ子ではないか、とまでも侍医団は考える事態が起きていた。
美子は呆然とするしか無かった。
速やかに健康な子を産もう、と考えての行動だったが。
自らの胎内に複数の子がいる、それも最大で六つ子とは。
尚、これを聞いた今上陛下は素直に喜んだ。
「無事に胎児が全て産まれれば良いな」
「実際に産むのが、私とはいえ、軽く言わないで下さい。私は双子以上を産んだことはないのです」
今上陛下の余りにも軽い言葉に、さしもの美子も半目になりつつ言わざるをえない。
「美子ならば大丈夫だ。きっと六つ子でも全員が無事に産まれて、美子も無事だとも」
今上陛下は、軽く言った。
実際に様々な方策を講じたとはいえ、美子が入内してすぐに妊娠するとは、更に多胎妊娠をするとは。
皇位継承問題が、完全に解消することになるのでは、とまで今上陛下は舞い上がっていた。
とはいえ、美子にしてみれば、そうは軽々しく考えられる問題ではない。
美子なりに考えあぐねる事態になっている。
「双子や三つ子、それ以上の子を同時に産むことは、畜生腹といって忌み嫌う人が多いとか。無事に男児が産まれて、皇太子になるようなことがあっても、民が歓迎しない事態が起きるやも」
美子は、それとなく今上陛下を諫めるようなことを言った。
だが、今上陛下の方が、この点に関しては強気だった。
「仮にも朕と中宮である其方の間の子だぞ。それが皇太子になるのを誹謗するとは。不敬罪として、誹謗者を容赦なく処断するように、内務大臣や司法大臣、最高裁判所長官に、朕から働きかけよう」
そこまで、今上陛下は言い放った。
(少し余談を。
皇后陛下の千江が、既に皇太子殿下を産んでいるのでは、という指摘が起きそうですが。
今上陛下も、美子も、現在の皇太子殿下は余りにも病弱であり、即位できないと諦めているのです。
そうしたことから、今上陛下としては、中宮である美子が産む子を、皇太子にしようと考えている事態が起きています)
「確かにその通りかもしれませんね。それに偏見を解消するのに、良い効果が上がるでしょう」
今上陛下の言葉を受けて、美子は改めて前を向くようなことを言った。
実際、美子なりに考えてみても、極めて良いことやも、と考えられた。
何しろ皇太子殿下に、複数の双子の弟妹ができるやもしれないのだ。
そして、何れは今上陛下として、即位するようなことになれば。
双子を畜生腹だとして、差別するような意見、主張は、少なくとも日本国内から表面上消えるだろう。
勿論、完全に双子に対する差別が消えるとまでは、美子には考えられない。
だが、少なくとも公然たる双子に対する差別等が解消されるようになれば、少しは差別が消えて、良いことではないか、と美子は割り切って考えたのだ。
多胎児妊娠出産を差別するとは言語道断、とフルボッコにされそうですが。
史実の日本でも、松平秀康については多胎児出産に伴う差別がある、と現代でも考えられる等、多胎児妊娠を「畜生腹」として忌避してもおかしくないのが、この世界の現実ということでお願いします。
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