第87章―2
そんなことを養父の上里清が思いながら、入内の儀に参列している一方で、上里松一は様々に複雑な思いをしながら、実の兄弟姉妹と並んで入内の儀に参列していた。
一般の結婚式で言えば、新婦になる鷹司(上里)美子の実子に自分がなる以上、入内の儀に参列してもおかしくないのだが。
そもそも入内の儀自体が、吉野(南北)朝時代から長きに亘って絶えており、先代の後陽成天皇陛下と近衛前子様の入内の際に復活したという経緯がある。
その為に細目となると不明になった点が多々あり、鎌倉時代の公家の日記とかを参考にして、その際には入内の儀の細目を復元することになったとか。
更に言えば、連れ子がいるのに、入内した例となると。
自分が調べた限りだが、それこそ斉明天皇陛下が高向王と結婚して漢皇子を産み、生別か死別かは不明だが、高向王と離別した後で、舒明天皇陛下の下に入内した例が、直近の例の筈だが。
(舒明天皇陛下が崩御された後、皇極天皇陛下として、斉明天皇陛下は即位されています)
それこそ奈良時代より前、1000年近い前のことになってしまう。
当然と言っては何だが、その為に連れ子が入内の儀に参列する場合、どうすべきなのかは、前例が無いと言っても過言では無く、大騒動になったのだが。
自分からすれば、大伯母になる織田(三条)美子が後ろから睨み据え、更に実母が尚侍としての権能を振りかざすことで、何とかしてしまった。
完子伯母さんが、こっそり自分に教えてくれたのだが。
織田(三条)美子と鷹司(上里)美子は広橋愛を介して、秘密の祖母と孫になるという噂が、日本を除く世界中で流れているとのことだが、こういった連携を見ると自分でも本当に想えて来る。
それに今上(後水尾天皇)陛下からも、自分達兄弟姉妹が入内の儀に参列するのが当然だ、との御言葉があっては、前例に煩い公家社会の面々も、最終的には黙らざるをえなかったらしい。
(何で、織田(三条)美子と鷹司(上里)美子は広橋愛を介して秘密の祖母と孫になるという噂が、日本だけ流れていないのか、というと。
噂が膨らむ内に、広橋愛は正親町天皇陛下と織田(三条)美子の間の皇女という噂にまでなってしまい、下手に新聞等がそれを報じては、それこそ不敬罪になるとして報道されず、逆に否定するような報道が垂れ流された結果、日本だけ噂が流れなくなってしまったのだ)
そんなことを、松一が思っている間に、粛々と入内の儀は進んで、終わってしまった。
そして、式次第が終わり、何処となく寛いだ空気が流れ出したところで。
よちよち歩きをやっと脱したといえる文子内親王が、入内の儀が終わったことから母の千江皇后を探し求めて、乳母を従えてその場に入って来た。
そして、見知らぬ大人がいっぱいいることから、思わず固まってしまい、人見知りから文子内親王は更に泣きそうになった。
それを見つけた松一は、思わず文子内親王に駆け寄って、懸命にあやした。
更に松一の兄弟姉妹も、それを見て、文子内親王の下に集まった。
それに気づいた今上(後水尾天皇)陛下は、中宮になった美子や皇后の千江に話しかけた。
「早速、兄弟姉妹が仲良くなったようだな」
「ええ」
美子は即答し、千江は微笑んだ。
「あのまま仲良くなっては、文子と松一が結ばれそうな気がするな」
今上陛下の軽口に、千江は言った。
「それも悪くないかもしれませんね。摂家の当主ならば、皇女を降嫁させても問題無いでしょう」
「流石に気が早過ぎです。文子内親王は2歳です。松一は11歳ですから、歳が釣り合わなくもないですが」
美子は、そう今上陛下をたしなめたが。
3人共に内心では想った。
確かに二人が将来、結ばれる気がする光景だな。
名前を貰った曽祖父と同様に、松一は意図せずに女性とのフラグを立てる男なのです。
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