第86章―10
更に徳川家光が、北米共和国の政治家、大統領への路を忌避する理由があった。
それは、北米共和国内の宗教争いだった。
北米共和国内の宗教は、それこそ世界各国の中で、最も多種多様といって良かった。
更に言えば、隠微な形で各宗教、宗派が様々に対立、対峙しているのが現実だった。
そもそも論になるが、日本から北米への移民を行った際、その中心となったのが、浄土真宗本願寺派と法華宗不受不施派である。
そして、北米に移民する前の日本国内で、浄土真宗本願寺派と法華宗不受不施派は既に不俱戴天の仇敵関係に陥っていた、と言っても過言では無く、日本の北米植民地が拡大する過程で、その二つは競い合ってネイティブ・アメリカンへの布教活動を進めて、改宗者を獲得していったのだ。
更に言えば、そのままその二つの宗派が、北米共和国内に広まるだけならば、まだ良かっただろう。
だが、実際には欧州大陸やアフリカ大陸から、大量の年季奉公人が日本の北米植民地に運び込まれる中で、元々の土地で信じられていたのもあるが、徐々にキリスト教やイスラム教、更にその中で様々な宗派が年季奉公人を介して、北米共和国内で広まることになったのだ。
最も、それ位は当時の北米植民地の指導者と言える、徳川家康や武田義信、武田(上里)和子らも予期していたことで、年季奉公人を受け入れる以上は止むを得ないことと割り切っていた。
だが、日本の北米植民地が独立戦争を引き起こし、結果的に北米共和国が成立した後、更なる宗教上の混迷が、北米共和国に結果的に持ち込まれることになった。
まず一つ目が、ローマ帝国復興から東西教会合同の流れが起き、それに反発するカトリック教会の一部が、古カトリック教会として分離独立したことである。
(尚、彼ら自身は正統カトリック教会と自称している)
そして、欧州諸国の政府は、ローマ帝国や本来のカトリック教会への忖度から、古カトリック教会は異端であるとして、様々な圧迫を加えることとなった。
そのために古カトリック教会の聖職者の多くが北米共和国へと逃れて、北米共和国内で積極的な布教を行って、信徒を獲得することになったのだ。
二つ目が、オスマン帝国内のマンダ教徒の北米共和国へのエクソダス、大量出国である。
これはローマ帝国復興戦争に伴い、オスマン帝国がスルタン=カリフ制を採用したことの負の側面から生じたモノといえることで、オスマン帝国内でイスラム教スンニ派の信徒の一部が過激化し、帝国内の異教徒や異宗派への大規模な迫害が起きたのだ。
そういった状況から、オスマン帝国のマンダ教徒が、(その裏では上里家の面々が暗躍したのだが)北米共和国へと大量出国する事態が起きたのだ。
更に難儀なことに、北米共和国へと信徒が大量出国したことから、地域宗教だったマンダ教は変質してしまい、グノーシス主義を採る世界宗教化を図るようになった。
(そのために、北米共和国に信徒が大量に住むようになって以降のマンダ教は、新マンダ教と呼ばれることが多い)
古カトリックの信徒は、東西教会の合同に賛同した多くのキリスト教徒から異端視される存在だし、新マンダ教のグノーシス主義に至っては、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の不倶戴天の仇敵である。
そして、北米共和国内では、古カトリックの信徒や新マンダ教徒が増えつつある現実があるのだ。
(これは原水爆や弾道弾の進歩から、終末論が世界中で強まっている影響も大きい。
グノーシス主義は、この世を造ったのは神ではない、と説くし、古カトリック教会にしても、ローマを異端の者が治めるようになった、と説く有様なのだ)
そういった状況から、北米共和国内は不安定化していたのだ。
これ以上は描く程、上手くまとめられなくなりそうなこともあり、これで第86章を終えて、次話からは今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子の入内の儀とその余波等を描く第87章にします。
尚、第87章は5話程で終えて、いよいよ事実上の最終章になる第88章となり、この世界で人類初の月面到達を描こうと考えています。
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