第86章―9
だが、徳川家光には実父である徳川秀忠にも明かせない考えがあった。
だからこそ、家光は陸軍の軍人を志望しており、父が望むような政治家、更にできれば大統領への路を歩みたくない、と考えていたのだ。
それは何か、というと、余りにも多人種、多宗教の国になった北米共和国の現状だった。
大統領制を敷いて、更に自由・平等・博愛のスローガンを掲げて、一体の国という幻影を国の内外に示してはいるが、一皮むけば、北米共和国の内実は砂の塊のように脆い、と言われても仕方ない。
そんな国の舵取りは、本当に大変で、自分にはとても無理なことだ。
そう家光は考えていたのだ。
実際、家光の考えは、そう誤ってはいなかった。
まず、北米共和国の領土の広大さが、却って負担になっていた。
現実世界で言えば、カリフォルニア、オレゴン、ワシントン、ハワイの四州及びアリューシャン列島を除いたアメリカ合衆国、及びカナダが北米共和国の領土と言えるのだ。
本来ならば、分裂して複数の国家になってもおかしくない程の広大さで、幾ら様々な近現代技術によって、広大な領土間の通信や移動が容易になったとはいえ、そうは言っても、という規模なのは間違いないのが現実だった。
そして、そこに住んでいるのは、元からいた原住民、ネイティブ・アメリカンに加えて、日系人に、欧州諸国から来た白人に、アフリカ大陸から来た黒人に、少数ながら、アジア諸国から来た黄色人種までいるのが現実だった。
更に言えば、人種間の混血も進んでいるのだ。
それこそ、徳川家康の愛妾は異人種ばかりで、家康の子で純日本人と言えるのは、信康に亀子、秀忠と忠吉の4人しかおらず、それ以外の子12人は異人種との間の子になる。
他にも、例えば、本多忠勝とネイティブ・アメリカンの愛妾との間には稲子が生まれている。
そんな感じで、人種間の混血児が珍しくなく、裏に回れば、そういった混血児を嫌悪したり、差別したりする面々が、それなりにいるが。
そうは言っても、自由・平等・博愛を建国のスローガンとしている以上、公式にはそういった差別は禁止されているのが、北米共和国である。
そうしたことから、公立学校での教育や公務員の採用等について、人種差別は行われておらず、そういった公的部門を背景にして、北米共和国内の人種間の融和は進められてはいる。
だが、そうは言っても、ということがあるのが、人種間の差別の現実だった。
どうのこうの言っても、北米共和国は日系国家なのは間違いない。
だから、どうしても元日本人や日本人の血が混じっている面々が優位な立場にあるのが現実だった。
それ故に白人や黒人、ネイティブ・アメリカンは下に見られがちで、彼らは様々な場面で差別されている、と訴えることが多発していた。
だが、そういった現実に対して、北米共和国政府が差別解消措置を講じれば。
それはそれで、元日本人や日本人の血が混じっている面々が逆差別だ、と憤る事態が起きるのだ。
更に言えば、この世界の北米共和国は、現実世界の米国と同様に、市民(国民)が武装する権利を憲法で認めており、市民が銃を持っているのが当たり前の社会でもあった。
だから、それに対抗するように警察組織も重武装化せざるを得ない。
(具体的には、流石に駐在所の警官等は拳銃しか持っていないが、機動隊等は自動小銃や短機関銃を装備しているのが、北米共和国では当たり前だった。
尚、この世界の日本の警官は、駐在所ならば警棒のみ、機動隊でも一部がボルトアクション式小銃を装備している程度で、基本は拳銃装備だった)
そんな北米共和国の現実から、家光としては、将来の路としては政治家では無く、軍人を目指そうと考えていたのだ。
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