第86章―1 ローマ帝国と北米共和国の現状
新章の第86章の始まりになります。
尚、最初の2話は現状の上里家の内幕話に事実上はなります。
1621年の夏、上里勝利は80歳を越えた高齢の身をおして、エウドキヤ女帝の様々な下問に答える羽目になっていた。
本来ならば、既に隠居した身ですから、と自分としては逃げたいことだが、身内のことである以上は、女帝からの下問にはどうにも逃げる訳には行かない。
「其方の(義理の)姪の(鷹司(上里)美子)の入内(結婚式)の儀だが、本当に其方だけが赴くことで良いのか」
「姪からも、そのように内々の要望が届いています。確かに中宮と皇后は同格だが、ローマ帝国の皇女と張り合うような盛大な入内の儀は、私が再婚の身であることもあり、できる限りは避けたい。だから、衛星中継等もナシで、一部の式次第を録画で公開することにして、参列者も完全に身内だけにしたい、と姪は希望しており、今上(後水尾天皇)陛下も、それに賛同されているとか」
「ほう。一帝二后並立の盛儀を復活させるにしては、少し寂しい気がする話よ」
上里勝利とエウドキヤ女帝は、直に膝詰めでやり取りをしていた。
「それにしても、広橋愛が正親町天皇と織田(三条)美子の間の秘密の子とは。話を膨らませるにも程があるのではないか。それ故に鷹司(上里)美子は入内することになったとか」
「こういう話は盛れば盛る程、却って真実の一部が隠れているように見えるものです。それに最初に話を盛り出したのは、オスマン帝国のようです。セリム2世と織田(三条)美子の間の秘密の子が広橋愛で、オスマン帝国のハレムの中で育った。そして、義理の叔父になる上里清に広橋愛は逢って、叔父に恋したが、既に叔父は妻帯していたので、広橋愛は表向きは奴隷として叔父と結ばれた、という噂をオスマン帝国は流したとか。こちらは、それに対抗して、話を盛っただけです」
エウドキヤ女帝の言葉に、上里勝利は涼しい顔をしていったが。
内心では、お互いに苦笑せざるを得なかった。
鷹司(上里)美子の実母の広橋愛が、実は織田(三条)美子の秘密の子という噂を最初に流したのは、ローマ帝国の情報部なのだが。
数年後にオスマン帝国も、その噂に話を盛るようなことをしたのだ。
広橋愛がオスマン帝国のハレムにいたのは、セリム2世と織田(三条)美子の秘密の子だったからだ。
そして、上記のような経緯で、広橋愛と上里清は結ばれ、鷹司(上里)美子が産まれたのだ、という噂をオスマン帝国は流しだし、それが主としてイスラム教世界では流布することになったのだ。
更に鷹司(上里)美子が中宮として入内する話が出たことから、その話が世界に広まり、カリフの秘密の孫が、日本の今上陛下の妻になる、という話が世界で広まることになった。
それを面白く想わなかったローマ帝国側は、更なる情報工作に奔った。
広橋愛の実父はセリム2世ではない、実は正親町天皇だ。
織田(三条)美子は尚侍として、正親町天皇の寝所に侍って皇女を身籠ったが、織田信長という夫のいる身である以上、秘密にせざるを得なかった。
そして、オスマン帝国に居る際に出産する事態になり、秘密の子を人質としてセリム2世に織田(三条)美子は預けたのだ。
広橋愛は、そういった経緯でオスマン帝国で育ったのだ。
そう噂を流したのだ。
ともかく、そんな情報工作が行われた結果として。
織田(三条)美子は、
「いい加減にしろ」
と超要約すればだが、上里勝利に苦情の電話を掛けることになり、オスマン帝国政府にも、似たような苦情を入れる羽目になった。
その一方、今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子は。
「其方は、カリフの秘密の孫なのか。それとも父(後陽成天皇陛下)の従妹なのか」
「そんな筈は無いのですがね。本当に話は膨らむものです」
と笑い合う事態が起きた。
細かいことを言えば、セリム2世はカリフになっていませんが。
又、正親町天皇陛下と後陽成天皇陛下は、祖父と孫の関係になりますが。
そんなことから、今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子は笑い合う一方で、織田(三条)美子は私の不倫のねつ造合戦をするな、と激怒する事態が起きました。
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