第85章―20
そんなことまで、袁崇煥と武田信勝中将の話は進んだが。
その一方で、袁崇煥は武田中将に、今後の明帝国の本来の軍隊、陸海空軍については、どう日本や後金、モンゴルは考えているのか、を聞かない訳には行かなかった。
「(1621年)現在、約80万人の陸海の軍人を、我が明帝国は抱えています。大規模な流賊集団は、ほぼ消滅しており、又、京杭大運河の大工事を発端として、他にも道路や水路の整備を行って、明帝国内の大きな傷は徐々に癒えていることもあって、そろそろ陸海の軍人削減を行うべきときが来ています。その多くが、国家憲兵(警察軍)に転職するでしょうが、実際に軍人を辞める者も出るでしょう。我が明帝国の軍隊は、今後、どのような形になるのでしょうか。又、日本等は、どのように考えているのでしょうか」
袁崇煥は、改めて武田中将の目を見据えて聞いた。
「あくまでも私見ということで、聞いていただけますか」
武田中将は念を押した上で、袁崇煥に自らも向き合った上で答えた。
実際には、武田中将は日本政府等と密接にやり取りをしており、その意向を十分に把握している。
だが、これはあくまでも私的な懇談という形で行われている以上、正式なモノと思われては困るのだ。
そして、袁崇煥の反応を確認した上で、正式な経路で申入れをしよう、と武田中将は考えている。
「明帝国は、それなりに現代に合わせた少数精鋭の軍隊を保有すべき、と私は考えています。10年先を見据えて、教育を始めとする様々な国内改革を行い、愛国心に溢れた軍隊を育成すべきです。その頃までいけば、そして、順調に進めば、それこそ超音速のジェット機を保有する(陸軍航空隊から発展した)空軍を建設することになっているでしょう」
「我が国を無防備な状態にはしない、ということですか」
武田中将の言葉に、少し袁崇煥は驚かざるを得なかった。
袁崇煥は、これまでの日明関係から、日本は明帝国の軍隊の質的強化を行わないのでは、と内心では疑っていたのだ。
実際、日明戦争が終結した直後、明帝国内は荒廃しており、更に流賊討伐が最優先という事情はあったが、明帝国の陸軍を事実上は国家憲兵(警察軍)的存在に変えるように指導したのは、日本だった。
そして、明帝国内の流賊の多くが討伐されて治安が回復した以上、明帝国の内外の脅威は大幅に低減しており、軍縮のときが来つつある。
それらを考え合わせれば、軍の質的強化を日本は行わないやも、と考えていたのだが。
「軍隊は国の背骨です。背骨をしっかりしないと国は持ちません。我が日本は、明帝国に対して、それなり以上の軍事支援を引き続き行うべき、と私は考えています」
武田中将は言った。
だが、内心では少しズレたことも考えていた。
そうしないと、北米共和国やローマ帝国が明帝国の軍事改革を支援しよう、と行動を起こしかねない。
更にその果てに、明帝国が北米共和国ならまだしも、ローマ帝国と同盟関係を結んでは、それこそ日本にとって、国防上の大問題になる。
だから、日本は明帝国に軍事支援を引き続き行うべきなのだ。
だが、このときの袁崇煥には、そこまでのことが分からなかったので、単純に感激した。
「それは有難い。明帝国軍に対して、質的強化を進めて下さるとは。我が国も、その支援に応えられるように頑張りたい、と私は考えます」
「実際、表面上は世界はおおむね平和ですが、そうは言っても、ローマ帝国等、きな臭い動きをする国があるのが、世界の現実です。明帝国もそれなりの軍備を持つべきなのです」
武田中将と袁崇煥はやり取りをした。
そして、このやり取りが下地になって、明帝国陸海軍の改革に日本は引き続き協力することになった。
明軍の再強化は不要では、と思われそうですが、それはそれで、ローマ帝国や北米共和国が首を突っ込んできそうなので、日本としてはそれなりの協力をしない訳にはいかないのです。
これで、第85章を終えて、次話から第86章となり、10話程を掛けて、ローマ帝国と北米共和国の現況を描く予定です。
尚、最初の2話は結果的に上里家の兄弟姉妹の現況等になりました。
ご感想等をお待ちしています。




