第85章―14
そんな感じで、麻薬と拳銃等の武器の物々交換という形で、様々な海上経路を使って、北米共和国から明帝国へと拳銃等が密輸出される事態が起きていた。
更に言えば、東南アジアの島しょ部(現代で言えば、フィリピンやインドネシア等)について、日本は基本的に一部の良港(港湾都市)等を拠点として植民地化していたが、それ以外の陸地は、現地の小国(というより勢力)が統治しているところが多かった。
こういった小国は、君主制を敷いていることが多かったが、良好な行政、政府を持っていないことが多く、一皮むけば無政府状態に近いことが稀でなく、住民による自治、自衛が当り前という処が多かった。
そうなってくると、そういった土地の住民も拳銃等で武装するのが当たり前になってくる。
更に言えば、「皇軍来訪」以来、倭寇はそういった島しょ部を、ある意味では便利使いしていた。
そういった小国政府の要人に賄賂を贈り、日本政府が取締りを行う武器や麻薬の密造や密輸等を、そういった場所で行ってきたのだ。
そういった状況を少し裏の視点から述べる、描くならば。
「東南アジアの島しょ部ですが、下手に日本人は訪れられない場所が多々あります」
「そうなのか」
「私の父方曽祖父(張敬修)は、最後の頃は隠居していましたが、倭寇の大頭目でしたからね。倭寇の面々に顔が利きました。そうしたことから、祖母(上里愛子)も、そういった伝手で、色々と情報等を得ることが出来ていました。御存知のように、私と祖母の仲は微妙でしたが、そうはいっても同じ敷地内に住んでいましたから、顔を合わせて話をすることがあったのです。その際に、祖母が言っていたのが、東南アジアの島しょ部には、色々と闇があるの。流石に大砲は無理だけど、個人で携帯できる銃火器や麻薬等、そういった御禁制の品々が密やかに造られ、様々な経路で売られている。私はやらないけど、そういったモノを、私は買おうと考えれば、すぐに買える。そう亡くなる前の祖母は真顔で言っていました」
「何とも怖ろしい話だな」
鷹司(上里)美子は、今上(後水尾天皇)陛下と、そんな会話を1616年頃にしていた。
実際、美子の言葉に嘘は無く、又、実は美子もそういった密輸経路を朧気ながら把握していた。
祖母の兄弟は流石に物故しているが、父の上里清の従兄弟らは、未だにマニラの顔役で、いわゆる暗黒街にもそれなりに顔が利く。
だから、流石に仁義があるので、清や美子にそういった武器や麻薬の購入ルートを、彼らが明かすことはないが、清や美子にしてみれば、彼らがいざとなれば、そういったモノを入手出来て、更に自分達に転売することさえできるのを知っていたのだ。
「やれやれ、朕は本当に怖い女性に囲まれている気がするな。(皇后の)千江は自分の拳銃を持って、撃ったことがあると言っていたし。其方に至っては、麻薬や携帯可能な銃を、何時でも買えるとは」
「実際に私が買ったことはありませんが」
「性質の悪い冗談では無かったのか」
「冗談では無く、真実です。ともかく、明から阿片が輸出され、その代償として、拳銃を始めとする武器が明に流れ込んでいるルートが、東南アジアの島しょ部を主に介してあるのは間違いないです」
今上陛下と美子の会話は進んだ。
「それで、どうすれば明帝国内の流賊等への武器の流入を阻止できるのだ」
「こまめに潰していくしかありません。沿岸部を制して、それから内陸部に流賊等を追い立てて、明帝国内への武器の流入を徐々に困難にして、最終的には不可能にしていくしかありませんね」
「何とも歳月の掛かる話を聞かされた気がするな」
「でも、それが現実です。容易には出来ません」
二人は会話した。
皇后陛下も皇后陛下なら、中宮陛下も中宮陛下という怖い現実が。
(ところで、皇后と中宮は同格である以上、敬称は「陛下」で問題無いですよね)
この世界の後水尾天皇陛下の宮中での女の喧嘩は、銃撃戦が展開されてもおかしくないという。
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