第85章―5
徐光啓らは、更に熱心にこの件についての利益を泰昌帝に語った。
「白銅や黄銅で通貨を発行すれば、額面以下の金額で通貨を製造することが出来るのです。更に高額な通貨については、何時でも金と兌換できる、ということで紙幣で発行すれば、更に通貨を発行するのに費用が掛からなくなります」
「そういうものなのか」
「但し、それは通貨や紙幣に信用がある場合に限られますが、我が国の場合は、日本が固定相場制を採用して、信用を付与すると言ってくれているのです。これには乗るべきです」
徐光啓らは、泰昌帝を熱心に説得した。
泰昌帝にしても、臣下がここまで熱心に語るのならば、と考えるようになった。
「よく分かった。それならば、白銅や青銅で通貨を発行し、更には紙幣を発行することにしよう」
泰昌帝は最終的には、徐光啓らの提案に同意した。
「ところで、何故に京杭大運河の大改修を行う者達に賃金を払うのだ。その点について、詳しく説明して欲しい」
「日本政府の説明の受け売りにほぼなりますが」
泰昌帝と徐光啓らの話は更に続いた。
(以下は、要約した説明である)
現在、明帝国内にはこれまでの暴政の結果、大量の難民が発生し、更に難民が流賊になって、流賊が大量に蔓延っているという悪夢のような現実がある。
彼らを正業に就かせることで、明帝国の治安を改善するのは喫緊の課題となっている。
勿論、犯罪者である以上、流賊を処罰する必要があるのは間違いないが、流賊が真面目に更生する機会を与えるべきではないか。
京杭大運河は、それこそ北京と杭州を結ぶ大運河であり、華北から華中に掛けての多くの民が働く機会を与えられることになる。
そこで真面目に働けば、賃金を稼げることが分かれば、流賊の多くが過去を隠して、京杭大運河建設に従事することになるだろう。
それは必然的に治安を大幅に改善することになる。
そして、京杭大運河建設で働いて賃金を得られれば、そういった労働者はそのお金を必然的に使おうとするだろう。
そして、お金が使われることで循環するようになれば、更にお金はお金を生むようになり、明帝国の経済は好転し、明帝国の財政等も再建の糸口を掴めるだろう。
それによって、明帝国の現状改善を図るべきだ。
そのように日本政府は、徐光啓らに対して、京杭大運河建設、改修工事の利益を説明したのだ。
そして、それに納得した徐光啓らは、泰昌帝を今度は説得したという次第だった。
泰昌帝は、徐光啓らの説明を聞くにつれ、京杭大運河建設、改修に従事する者に賃金を支払うことは多大な利益がある、ということを納得せざるを得なかった。
更にこの賃金が新通貨や紙幣で支払われることで、必然的に新通貨や紙幣が、労働者を介して、世間に流通するようにもなるのだ。
日本の通貨と固定相場で交換できる、と言われても、京杭大運河建設、改修に従事する者にそんな余裕がある者は、殆どいないだろう。
そういった点でも、多大な利点がある方針と言えた。
そして、こういった会話が交わされた末に、京杭大運河建設、改修は1617年から始まることになり、1621年現在も続く大工事になっていた。
これは、明帝国内の工事の多くが人力頼みという問題から、ある程度は止むを得ないことだった。
何しろ、下手に機械化を進めるよりも、この当時の明帝国では人力頼みにした方が安くつくのだ。
(これは機械化を進めようとすると、必然的に機械の使い方を指導しなければならないという問題もあることからすれば、尚更に問題になった)
そして、少しでも多くの流賊を正業に就かせるという裏の方針までもがあっては。
京杭大運河建設、改修工事で、少しでも多くの人を働かせようとなって当然だった。
実際問題として、通貨を発行するのにもお金が必要な現実が。
そうしたことからも、通貨改革を行う必要がありました。
(尚、後だしジャンケンにならないように、予め述べますが、実は裏があり、10話程後で描かれます)
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