第84章―20
話中で固体ヘリウム云々が出てきますが。
それ程に怖ろしい事態として、この世界では人口に膾炙している、ということでご寛恕を。
さて、日本の改憲のてん末を受けた北米共和国政府最上層部の反応だが。
「本当に鷹司(上里)美子の入内が既に決まっていて良かった、と言うべきだろうな」
「真に仰られる通りかと」
「あれだけの内容、衆議院の優越を認める改憲だぞ。普通に考えれば、貴族院議員の反対多数から流産が当然なのに、僅か3月で改憲を成功させるとは。更に貴族院の上位を占める摂家、清華家、大臣家全ての同意を取り付けてしまうとは。背中に固体ヘリウムを押し付けられたように冷たくなる話ではないか」
「我が国も何度か、改憲していますが。それなりどころではなく、苦労した末のこと。それを考える程に鷹司(上里)美子の剛腕ぶりが怖ろしいですな」
「武田信光前大統領までが、実は鷹司(上里)美子は伯母の織田(三条)美子の秘密の孫だ、そうでなければ、あれ程の政治的才能を持つ筈が無い、と陰で言うのも当然の気がするな」
「エウドキヤ女帝と、真面に対峙できた世界で唯二人の存在ですから。実の祖母と孫で当然ですな」
「本当に、鷹司(上里)美子が日本の首相に成れば、儂の息子の家光は、悦んで美子の邸宅の門前に馬を繋ぐ事態が起きる気までするな」
「我が子に対して、余りにも冷たい言葉では」
「忘れたのか。美子の事実上の義弟に、儂の息子の正之が成っているのを」
「そう言えばそうでした」
「美子に、母親が違うとはいえ、兄弟の礼を執るのが当然でしょう、と言われれば、家光は正之に対して弟の礼を執らざるを得ない、更には美子に対しても、正之の姉として対応せざるを得ず、最終的には」
「考え過ぎと言えば、考え過ぎですが。美子ならば、家光様を言いくるめてしまいそうですな」
徳川秀忠大統領と大久保正隣国務長官は、やや長い内幕話をせざるを得なかった。
実際問題として、二人共に鷹司(上里)美子の剛腕に驚嘆するしか無かった。
北米共和国は、何度か憲法改正を行っているが、それこそ数年掛かりが珍しく無かった。
尚、北米共和国の憲法改正だが、修正条項を附加する形で行われている。
さて、少なからず時を遡る話をすることになる。
北米共和国が、日本からの独立を果たした後、それこそ共和国として国民主権を基本とする憲法を制定することになったのだが。
その憲法の内容については、激論が交わされる話になった。
更に言えば、その憲法をどうやって承認するのか、承認したと言えるのか、も大問題になった。
(何度か描いているが)北米共和国の前身といえる北米植民地だが、それこそ現地の住民が積極的に開拓、植民を進めたと言えば、聞こえは良いが、実際のところ、行き当たりばったり、と言われても仕方のないやり方で、植民地開発が進められたと言っても過言では無かった。
そのために、本来ならば、まずは村落が造られ、更にはそれが寄り集まって市や郡が、更には県や州が造られていくべきなのだろうが、それこそ村落をどう造るか、という段階で揉める事態が起きたのだ。
何とも皮肉なことに、北米独立戦争が勃発したことから、戦争遂行の為に、という大義名分が掲げられることで、そうした混乱が強引に迎え込まれて、仮に近いモノが極めて強かったが、住民数を確認した上で、村落として認めて、郡等を造り、更には州を造るという泥縄をすることになった。
そして、そういった既成事実を背景として、北米独立戦争終結後に改めてそういった州や郡等が公式化するという、ある意味では酷い事態が起きたのだ。
ともかく、こういった状況が背景にあったことから、北米独立戦争後の憲法制定、国家の制度確立にしても、北米共和国内では激論が交わされることになり、最終的には国民投票で憲法が承認される事態に至ったのだ。
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