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第84章―6

 度々、すみません。

 場面が変わります。


 今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子尚侍の会話です。

 そんな苦悩を伊達政宗首相やその周囲の労農党所属の衆議院議員がしているのを、実は重々承知していながら、相前後して、鷹司(上里)美子は間もなく結婚する相手の今上(後水尾天皇)陛下相手に、そんなことを全く知らないかのように、伊達首相が求めている「衆議院の優越」を求める大日本帝国憲法改正の論点について、事実上の講義をする事態が起きていた。


 尚、本来からすれば、美子と今上陛下の会話は、美子の入内前の雑談に過ぎない代物であるが。

 それこそお互いの立場が立場であり、双方の政治的見識も絡んでくる。

 そのために、美子が今上陛下に対して、改憲の論点を講義するような事態が引き起こされていたのだ。


「さて、それこそ大日本帝国憲法制定時において、実は隠れた論争が交わされたのが、国会をどうするのか、という問題です。国会は一院制にすべきか、二院制にすべきか、はたまた、それ以上の数の国会を造るべきなのか。世界各国の現状を見て、考えれば、本当に悩ましい問題、論争が起きて当然なのです」

「確かに、言われてみればそうだな。いわゆる臣民の選挙によって選ばれた者だけの国会、日本で言えば衆議院だけにするのか。それ以外の国会も設けるべきなのか。日本で言えば、貴族院を設けるのか。欧州を始めとする諸外国政府も頭を痛めているらしいな」

 美子と今上陛下は、会話を交わした。


「それこそフランスが好例です。フランスでは三部会といって、聖職者から成る第一部会、貴族から成る第二部会、平民と言っても実は高額納税者の都市代表者によって事実上は成る第三部会が、国会の役目を果たしていましたが。ローマ帝国の復興や東西教会の合同等の諸事情から、第一部会は廃止され、第二部会と第三部会が、新たに国会に改編される事態が起きています」

「欧州諸国で起きている政教分離の流れを、フランスも受け入れて、第一部会の廃止に踏み切った、と朕は理解しているな」

 二人のやり取りは続いた。


「決して誤ってはいませんが。欧州諸国で政教分離の動きが急激に起きているのは、特にカトリック信徒が大半を占める国において、ローマ教皇庁を介して、ローマ帝国が各国内の聖職者を悪用して、内政干渉をするのでは、という警戒感があるからです。実際にはローマ帝国は、そんなことを考えていないようですが、欧州諸国政府最上層部にしてみれば、警戒して当然と言うことでしょう。更にそれを横から見ているプロテスタント諸国も、政教分離に力を入れるようになっています」

「そう言われれば、その通りだな」

 二人の会話は更に深まった。


(尚、二人の間では自明の理なので、全く触れていないが。

 この世界では、東方正教の国といえるのは、事実上はローマ帝国しか存在しない。

 そして、ローマ帝国が政教分離を遂行しているのは、二人にしてみれば公知の事実だった。

 そうしたことから、東方正教の国については、二人は会話では触れない事態が起きたのだ)


「そうした背景を踏まえた上で、大日本帝国憲法制定に伴い、日本は衆議院と貴族院の二院制を、国会においては採用しました。これは慎重に物事を審理する、ということからすれば、決して悪いことではなく、むしろ当然です」

「確かにその通りだな」

 二人の会話は続いた。


「ですが、こうしたことは、必然的に衆議院の議決と貴族院の議決が異なる、等の事態を引き起こし、完全に二つの議会を対等にしていては、却って問題がこじれる可能性があります」

 美子の言葉に、今上陛下は無言で肯くことで同意した。


「これまでは運用で何とかしてきましたが、これが何時までも続くとは考えにくい。そうしたことから、改憲の動きが起きたのです」

 そう美子は明言した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローマ帝国を除く欧州諸国も一時は駄目かと思いましたが、それなり以上に近代化しつつあるようです。
[良い点] 「これまでは運用で何とかしてきましたが、これが何時までも続くとは考えにくい。そうしたことから、改憲の動きが起きたのです」   ↑  ( ̄∀ ̄)まさに至言!運用でどうにかしていたら「統帥権」…
[良い点] 先生も生徒も優秀なので、問題点が鮮明に良く説明されています。読者も課題が整理されて良く判ります。
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