第84章―5
場面が変わっています。
伊達政宗首相は、宇喜多秀家副首相他の腹心と言える一部の労農党の衆議院議員を集めた場で、話をしています。
ともかく、そんな感じで大日本帝国憲法の改正案を実際に作成する段階から、鷹司(上里)美子を主な相手として、伊達政宗首相は一苦労では済まない奮闘を強いられることになった。
その為に腹心の部下といえる宇喜多秀家他に対して、政宗は改憲案をまとめることについて、色々と愚痴混じりの話をせざるを得なかった。
「本当に頭が痛い。主に改憲案のまとめをするのに、貴族院で交渉の窓口、自分の相手をしているのは鷹司(上里)美子と言っても過言では無いのだが。それこそ、色々と過去の経緯等を持ち出しては、自らの主張を補強して、衆議院の優越について否定論を出してくるから、首相の自分はやりにくくて仕方ない」
政宗は愚痴った。
「そこまで言われるのならば、美子様が入内されて中宮に成った後で、大日本帝国憲法の改正を進めるべきではないでしょうか」
まだ新人といえる二期目の労農党所属の女性衆議院議員が、政宗に忠告すると。
政宗は今度は渋い顔をし出して、暫く考えた末に言った。
「自分も美子が入内して中宮に成った後で、大日本帝国憲法改正を行うというのを考えなくもない」
「それならば、(そうすべきでは)」
とその女性議員が言い出した瞬間、それをさえぎりながら、政宗は言葉を継いだ。
「衆議院の優越を認めるということは、裏返せば貴族院の権限を縮小するということだ。美子が入内した後で、そんなことを貴族院の主な議員が受け入れると考えられるか。今ならば、美子が様々な剛腕を振るうことで、貴族院議員を黙らせることができるだろうが」
「確かに」
宇喜多秀家は、政宗の言葉を受けて短く賛同の声を挙げ、秀家の言葉を聞いたその場にいる他の面々も無言で肯いたり、その通りです、と短く賛同の声を挙げたりした。
冷静に考える程、逆のことが出来るのか、ということを考える程、美子が貴族院議員を睨み据えているといえる今が、大日本帝国憲法の改正を進める千載一遇の好機といえるのだ。
もし、衆議院の権限を縮小し、貴族院の権限を拡張する大日本帝国憲法改正を進めようとすれば、衆議院議員の殆どは、与野党の垣根を越えての大同団結を躊躇わないだろう。
それくらい、これまでに自分が享受してきた権限を縮小する、というのは享受者の反感を買うことだ。
今回の大日本帝国憲法改正は、その逆のこと、貴族院に対して衆議院の優越を、明文で憲法上で認めようという改正であり、貴族院議員の殆どが内心では反対したい代物なのだ。
それこそ、かつての外国人年季奉公人法案の際に、貴族院が様々な手管を弄して、審議を遅延させたように、改憲案の審議を遅延させて、最終的に時間切れの廃案を貴族院議員の多くが、表面上はともかく、本音では図る公算が高い。
それを強引に封じて、貴族院で改憲案の審議を促進させるとなると、余程の剛腕が必要不可欠だ。
美子は、それこそ間もなく中宮に入内する身であり、今ならば今上陛下と五摂家の総意を共に持ち出して、強引に貴族院議員の隠微な反対を押し潰せるが。
美子が入内してしまっては、貴族院を主導できる議員が事実上不在となり、改憲は極めて困難になる、そうこの場に居る労農党の衆議院議員の殆どは考えざるを得なかった。
「この際、大日本帝国憲法の改正を一度でも行ったという実績を造るのを最優先にしよう。鷹司(上里)美子にしても、改憲に全面的に反対という訳ではなく、それなりに改憲をするつもりがあるのだ。鷹司(上里)美子の改憲案に全面的に同意する方向で考えようではないか」
「「確かにその通り」」
伊達首相は、散々に悩んだ末に苦渋の決断を下して、その場にいた労農党の衆議院議員の多くも、伊達首相の決断に同意することになった。
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