第83章―15
視点が変わり、鷹司(上里)美子と信尚の次男になる上里松一視点になります。
尚、松一は上里清の養子になって上里家を継ぐことは決まっており、本人もそれを承知していましたが、それは松一の成人後とされていて、実際に信尚が健在の頃は鷹司家で他の兄妹と暮らしていました。
そんなやり取りを、実母の鷹司(上里)美子がしていること等、美子の次男にして、上里家の跡取り養子になった上里松一にしてみれば、全く思いもよらないことだった。
この頃に、やっと学習院中等部に入ろうとしていると言える松一にしてみれば、実父の鷹司信尚が急に薨去した直後と言える頃から、何故に実母の鷹司(上里)美子が、今上(後水尾天皇)陛下に中宮として入内する話が急激に日本の国内外で出だしたのか。
目を丸くするというか、どうにも自身では理解できない事態が起きているとしか、本当に言いようがない事態だったのだ。
実母の鷹司美子に、自分の内心をぶちまけるように、こんな事態が何故に起きたのかを問いただしても、その返答は自分にしてみれば要領を得ない返答というしかない。
更に言えば、自らの兄の教平や姉の智子にとっても同様のようで、自分が何故にこんな事態が起きたのかを問いただしても、答えに窮する有様のようだ。
自分としても、ある程度は分からなくもない。
実母の美子は、本当に魅力的な女性で、今上陛下が結婚したい、と言い、更に今上陛下から中宮として入内してほしい、というのもおかしくないが。
何故に、伊達政宗首相を始めとする日本国内の有力者や、エウドキヤ女帝や徳川秀忠と言った外国の有力者までも、実母の美子の入内を前向きになって推進しているのだ。
更に言えば、エウドキヤ女帝等の背後には、徳川千江皇后陛下の意向まであるとか。
本当に自分としては納得いかない話だった。
そんな風に、暴走気味の想いを松一は抱く羽目になったのだが。
やっと学習院の中等部に入ろうとしている松一では、自らの想いを果たすのは無理があり過ぎた。
更に言えば、松一の想いを潰すように、実母の美子を始めとして、いわゆる主な面々全てが動いているといっても過言では無かったのだ。
そんなことから、松一にしてみれば、懸命に奔走したにも関わらず、母の美子が中宮として今上陛下の下に入内することが決定する事態が起きることになった。
松一にしてみれば、どうにも納得のいかない事態だったが、自分の周囲全てが、美子の中宮入内を推進していると言っても、過言ではない事態が起きていては、どうにもならなかったのだ。
何しろ、その中には自分の養父になる上里清や実の父方祖父になる鷹司信房までいたのだから。
更に松一にしてみれば、衝撃を受ける事態が起きた。
実母から面と向かって、思わぬことを言われたのだ。
「松一、私は入内することになり、教平や智子、輝子は鷹司家で育てることになりました。そして、貴方は上里家で暮らしなさい」
母の美子は覚悟を固めた顔で、松一に告げた。
「えっ」
松一にしてみれば、本当に思わぬことで、絶句してしまった。
何れは上里の姓を名乗り、母方祖父の清の養子になることが決まってはいたが、それは自分が成人してからのことと、自分としては考えていたのだ。
「それから、今上陛下から御言葉がありました。摂家を5つのままにしておいては、色々と差し障りが起きかねない。現に成人している当主が、九条家にしかいない事態になっている。摂家を少し増やしても良いだろう。具体的には、九条幸家の三男の道基に松殿家を再興させ、上里家を摂家待遇にするとのことです。有難く受けなさい」
母は、そこまで言った。
「分かりました」
松一は、頭を下げながら言わざるを得なかった。
母は覚悟を固め、厳しい顔をしている。
この顔をしている母の言葉は極めて重く、自分には覆しようがない。
本音を言えば、10代半ばの男のやる事ではない、と言われそうだが、泣き喚き、そんなの嫌だ、と松一は言いたい程だった。
だが、これはどうにもならないことなのだ。
これで、第83章を終えて、次話からは大日本帝国憲法改正を描く第84章となります。
ご感想等をお待ちしています。




