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第83章―14

 そんな一時のやり取りを、鷹司(上里)美子と磐子はしたのだが。


 日本の国内外の世論に押されるような形で、鷹司信尚が薨去した末に四十九日の喪が明けた後、今上陛下に対して、九条兼孝が養女の美子を中宮として入内させたい旨を申し入れて、今上陛下がそれを受け入れるというある意味では茶番が行われることになった。

(美子は九条家の姫君として入内する以上、入内の申し入れをするのは、九条兼孝になる)


 尚、美子が正式に入内するのは、9月になってということになった。

 今上陛下の本音としては、それこそ信尚と美子が死別して半年が経った7月中に、美子を入内させたい程だったが、流石に準備が調わないとして9月の入内ということになったのだ。


 更に言えば、今上陛下と皇后陛下の結婚時と比較すれば、準備期間が乏しいこと等から、今上陛下と美子の結婚式が極めて簡素なモノになるのは、ある程度は避けられない事態となった。

 例えば、結婚式の際の衛星中継等は行われないことになった。


 最も今上陛下にしてみれば、少しでも早く美子を中宮として迎え入れたい以上、そんな仰々しい結婚式の準備をすることで、美子の入内が遅れることの方が遥かに問題だった。


 そして、美子にしても、盛大な結婚式等は出来れば避けたいことだった。

 何しろ夫の信尚が薨去してから1年も経っていないのだ。

 幾ら日本の国内外の世論が、自分が今上陛下に入内するのを(少なくとも表面上は)大歓迎しているとはいえ、本音では夫を急に失ったという傷心が完全に癒えていない以上、盛大な結婚式を挙行すること等、自分としては、とてもそんな気になれないことだった。


 それにもう一つ、美子にはやらねばならないことがあった。


「さて、ローマ帝国政府と北米共和国政府両方を脅しますか」

「脅すとは物騒な」

「いえ、伊達政宗首相が言ってきた大日本帝国憲法改正、それを入内前に済ませないと」

「期間は半年程しかないが」

「逆に言えば、半年程で大日本帝国憲法改正をまとめ上げれば、尚更に両国政府は脅威を覚えるでしょう。何処の国にしても、憲法改正というのは本当に重いものです」

「確かにな」

 今上陛下と美子は、入内に備えた準備を始めつつ、密やかにやり取りをした。


「(伊達)首相はどうするかな」

「自分から言い出した以上、動かざるを得ないでしょう。それに多くの衆議院議員にとって、衆議院の優越は長年の悲願です。保守党の衆議院議員の多くでさえ、労農党が提出した改憲案だから、といって反対するのは難しいでしょう」

 美子は今上陛下の問いかけに対して、そのように情勢分析をしてみせ、今上陛下もその通りだな、と認めて、無言で肯いた。


「だが、貴族院で改憲案が本当に通るかな。流石に多くの貴族院議員が消極的反対をして、審議を進めないのではないか」

「いざとなったら、義理の伯母(の織田(三条)美子)まで頼ります。それに」

 今上陛下の更なる問いに、美子はそこまで答えた後、いたずらっ子のように笑いながら言った。

「尚侍として、色々と貴族院議員の家族の裏情報を握っていますので、いざとなったら、チラつかせます。本人は身綺麗にしていても、家族までそうとは限りません」


「やれやれ、怖い女性に朕は惚れこんだものだ」

「では、私の入内は取り止めて、本当に私が首相になりましょうか」

「それこそ伊達首相が慌てふためくし、ローマ帝国と北米共和国両国政府最上層部も慌てるな」

 今上陛下と美子は、心から笑いあった。


「日本の皇室の怖ろしさを世界中に暗黙裡に知らせる良い機会だろう。存分にやるように」

「今上陛下の仰せのままに務めます」

 今上陛下と美子は笑いながら言い、その通りの流れが起きることになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  割れ鍋に閉じ蓋と言いますが── 今上陛下と美子は、心から笑いあった──すごく政治的に重いテーマを語り合ってるのに朗らかな二人が震えてしまうほどお似合いなのに読者の笑みも引き攣ってしまいま…
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