第83章―12
そんな思惑が宮中で起きる一方、今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子の、日本の国内外に対する密やかな連携プレーは、徐々に大きなバタフライ効果を引き起こすことになった。
細かいことを言えば、今上陛下と美子の考えは同床異夢と言っても過言では無かった。
だが、その一方で、今上陛下としては、美子を初恋の相手として中宮に迎えたいと考えて自らを鍛えており、美子としては、これまでの流れから、自分の横に寄り添えるように懸命に研鑽した結果、自分の横に寄り添えるようになった今上陛下を、無下にも出来ない状況になっていたことから。
結果的に、今上陛下も、鷹司(上里)美子も、お互いに結婚したい、と少なくとも表面上は共に考える事態に陥っていたのだ。
更に言えば、当事者同士が、そのような心境に陥っていた以上、そういった状況を周囲が煽れば、更に当事者同士の意向を結果的に無視しても、当事者同士が、そういった状況に陥るのも当然としか、言いようがない事態であって。
今上(後水尾天皇)陛下と、鷹司(上里)美子が結婚する、具体的には、美子が入内して中宮となり、今上陛下の傍に寄り添うのが当然ではないか、という声が高まるのは当然としか、周囲の視点からすれば当たり前としか、言いようがない事態が起きたのだ。
まず、日本国内の動きから述べるならば。
「鷹司信尚殿が急逝し、妻の美子殿が出家なさるとの噂があるが、トンデモナイことだ」
「そうなのですか」
「この際、美子殿には中宮に成っていただきたい。何しろ(摂家の)九条家の姫君だ。元は外国籍の皇后だけ、というのは皇室にとってどうだろうか。元々日本人の中宮を迎えられるべきではないだろうか」
伊達政宗首相以下、労農党幹部の衆議院議員は、そういって新聞記者を煽った。
そもそも論を言い出せば、美子は血統的には日本人とは言い難い。
何しろ実母は広橋愛で、血統的には純粋なアラブ系といって良い。
実父の上里清にしても、父方祖父は上里松一で(この世界では、皇軍出身なので日本人扱いだが、実際には)琉球人になる。
父方祖母の上里愛(張娃)にしても、華僑の父と琉球人の母の間の生まれなのだ。
それに比べれば、徳川千江の方が、血統的には完全な日本人になる。
何しろ千江の祖父母だが、徳川家康と西郷氏、浅井長政とお市になるのだから。
だが、(この世界の事情から)千江は元は外国人だ、と白眼視する日本人がそれなりにいて、元は外国人の皇后から生まれた天皇陛下というのはどうなのか、という声が小さいがあるのも現実だった。
だから、元々日本人の美子を中宮にしては、というのは、そういった面々にしてみれば、それなりに受け入れやすい話としか言いようが無く、更にそういった面々が騒ぐことで、日本の世論は、徐々に美子が中宮になるべきでは、という声が高まることになった。
更に追い風になる事態があった。
千江の実家というか、出身になる北米共和国やローマ帝国の政府最上層部が、美子が中宮になることに積極的に賛同する、と言い出したのだ。
両国政府最上層部としては、美子が中宮に成れば、美子の日本の首相就任が不可能になる、という国益からの発想なのだが、そんなことは口が裂けても言えない。
建前上は、そもそも伊達首相が言い出したのだが、
「一帝二后並立こそが、日本の皇室の本来の姿だ。皇室の盛事を今こそ取り戻すべきで、中宮を復活させるべきだ。具体的には美子殿を中宮にすべきだ」
との日本国内の声に。
日本がそうした国なのは予め了承している。
皇后に加えて、中宮を立后させるのは、日本の皇室が本来の姿に立ち返ることで、素晴らしいことだ。
と両国政府最上層部は賛同の声を挙げた。
茶番と言えば、茶番なのですが。
そうは言っても、日本の国内外で、こういった声が大きく上がれば。
夫が薨去したばかりの鷹司(上里)美子が、中宮として入内されるべき、と世論が煽られて、今上陛下の思惑通りに、美子が入内してもおかしくない、いや、入内されるべき、と世論は高まるのです。
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