第83章―10
そんな大騒動が北米共和国政府最上層部で起きて、更に鷹司(上里)美子が出家して尼僧になる一方、日本の首相になろうとしているという情報を、ローマ帝国政府最上層部に伝えた結果。
ローマ帝国最上層部も、深刻な顔をして、この情報に対処することになった。
「鷹司(上里)美子が出家して、更に日本の首相になる動きがある、という北米共和国や娘(の徳川千江)からの情報は間違いないのか」
エウドキヤ女帝は、養女の徳川千江からの手紙に加え、北米共和国政府最上層部から得た情報に驚かざるを得ず、思わず藤堂高虎大宰相を呼び出して、問い質す事態が起きていた。
「その通りと考えます。更に付け加えて言えば、我が(ローマ)帝国諜報部も、その情報を全面的に肯定しています」
藤堂高虎大宰相は、女帝の問いかけに即答した。
「この情報について、どのように大宰相としては考えているのだ」
女帝からの更なる問いかけに、藤堂大宰相は答えに詰まらざるを得なかった。
何しろ自分の考えを率直に言えば、女帝の癇癪が大爆発すると予測せざるを得なかったからだ。
だが、言わなければ言わなかったで、女帝の癇癪が大爆発する。
そのために、藤堂大宰相としては、口ごもりながら答えざるを得ない。
「もし、その通りになるならば、日本は鷹司首相の下、挙国一致内閣が成立し、事実上は一党独裁国家に変貌するでしょう。更に言えば、鷹司美子は、ある意味では理想の独裁者です。それをこれまでに様々なこと(例えば、今上陛下に徳川千江を皇后陛下として迎え入れている)等で実証しています。本当に我が(ローマ)帝国の国益に反する事態が起きる、と私は考えます」
少し長めに藤堂大宰相は、女帝の問いかけに返答した。
「何だと、そんな事態が起きるだと」
藤堂大宰相の答えに、そう言って女帝の癇癪は大爆発して数十分に亘って罵詈雑言が発せられたが。
それを聞き流しながら、藤堂大宰相は考えざるを得なかった。
先代の大宰相の上里勝利殿は、よくもあそこまで女帝の癇癪爆発を宥められたものだ。
勝利殿には、大宰相たるもの、女帝の癇癪を宥められて当然、と自分は言われるが。
自分には未だにできないことで、聞き流すのが精一杯だ。
ともかく修行と考えつつ、藤堂大宰相が女帝の罵詈雑言を聞き流すこと数十分、ようやく女帝は自らの発する罵詈雑言に疲れ果ててしまい、沈黙する事態に至った。
それを機に藤堂大宰相は、女帝に対する提言をした。
「この際、北米共和国政府が密やかに言ってきたように、鷹司美子の中宮としての入内工作を進めるべきではないでしょうか」
「娘婿に重婚するように勧めろ、というのか」
「娘の個人的な幸せと帝国の利益と、どちらが重要とお考えですか」
二人はやり取りをした。
「ふむ」
エウドキヤ女帝は考え込んだ。
個人として考えるならば、当然に娘の個人的な幸せだろう。
だが、我が身は女帝であり、当然のことながら、我が帝国の利益を最優先せねばならない。
本当に未だに自分としては、恨みが解けない我が父のイヴァン4世(雷帝)ではあるが、それこそ60歳代になって、我が父の苦悩が良く分かるようになっているのが、自分でも何とも言えない。
何故に姉二人を含めて、自分をクレムリンに幽閉したのか、と父に何処かで会えたら、様々な罵詈雑言を浴びせたい想いが未だにあるが。
だが、自らの心の奥底では、もし、自分が父の立場ならば、自分でも娘達をクレムリンに幽閉しただろう、という考えが浮かんでならないのだ。
そう自らの国の利益の為に。
それからすれば、娘婿に重婚するように勧めるのも止むを得ないことと考えるべきか。
養女の千江も、それを望んでいるし。
エウドキヤ女帝はそう考えた。
ご感想等をお待ちしています。




