第83章―2
その一方、完全に気を取り直した鷹司(上里)美子は(表向きは単なる)侍女である「天皇の忍び」の磐子に、今上(後水尾天皇)陛下に内密に連絡を取るように指示した。
この一件、鷹司信尚が薨去したのは、あくまでも完全な病死だ、と周囲に知らせる必要を、美子は覚えてならなかったのだ。
実際に、この状況は怪しもうと考えれば幾らでも怪しめる状況だ。
下手をすると、美子が夫を毒殺したという嫌疑さえ受けかねない状況になる。
磐子は裏の非常手段まで使って、「天皇の忍び」の頭領を介して、今上陛下と緊急連絡を付けた。
「ふむ」
皮肉なことに美子が鍛えたこともあり、阿吽の呼吸で今上陛下は、緊急連絡を受け次第、美子の危惧を受け入れることになり、今上陛下は色々と考えた末に。
「この際、ローマ帝国や北米共和国を巻き込むか」
今上陛下はそう考えて、皇后陛下になる千江等に働きかけることをした結果。
「ここまでのことになれば、疑われることもないでしょう。夫は本当に病で急死したのです」
「確かにな」
夫の葬儀の準備に奔走しながら、美子は義父の鷹司信房に訴え、信房は憮然とした表情を浮かべつつ、そう答えざるを得なかった。
結局、今上陛下の御声掛かりもあり、曲直瀬玄朔を長として、ローマ帝国や北米共和国から緊急派遣された医師まで加わって、鷹司信尚の病理解剖は行われた。
その結果、全く毒物等は検出されず、心臓発作によるいわゆる「ポックリ病」である、と病理解剖に当たった医師団は全員一致で診断することになったのだ。
それでも鷹司信尚の死の真相については、怪しむ日本の国内外の新聞等の報道機関が、皆無と言う訳にはいかなかったが。
彼らにしても、それなりの根拠等なくしての報道は出来ない。
鷹司信尚の病理解剖だが、世界の三大国の政府が事実上は協働で行って、更に鷹司信尚の病理解剖に関わった医師団全員一致で鷹司信尚は病死したと診断された事案について、実際に解剖等を行わなかった医師の言葉等を根拠に殺人事件等の報道をしたら。
それこそ、そう言った報道を行った報道機関は、表裏様々な手段を用いて潰されるまでの覚悟が必要不可欠になるのが当然だった。
だから、鷹司信尚は本当に心臓発作による「ボックリ病」で薨去した、という公式発表が世界中で受け入れられている状況にある、といって良い。
その為に美子はホッとして、夫の葬儀に専念できているのだが。
その一方で、美子の義父になる信房は、改めて美子の容貌等を見て考えざるを得なかった。
女やもめに花が咲く、と言う言葉があるが、美子には自覚が皆無のようだが、美子の容貌等は夫を失った寂しさから周囲の男を見境なく誘うような色気を発しているようにしか、自分には見えない。
自分は義父と割り切って美子を見ているから耐えられるが、耐えられない男が出る気がする。
そうなっては色々な意味で厄介だ。
それこそ美子は再婚するか、それとも仏門に入って、完全に俗世から離れるか、すべきだが。
あそこまでの色気を美子が発していては、弘法大師のような高僧でさえも、煩悩の虜になりそうな気がするのは、義父として考え過ぎだろうか。
下手をすると、
「我が寺が預かっては、僧侶の風紀が乱れるので、とても美子様を預かれません」
とまで、流石に正面からは言われないまでも、比叡山や高野山にさえも内々に言われそうな気がする。
そうなると、美子は何処かの男性と速やかに再婚させるべきだ。
いっそのこと、今上陛下に中宮として再婚させてはどうだろうか。
息子、信尚がいたので、そんなことは思いもよらないことだったが。
今や美子は独身、寡婦なのだ。
今上陛下の中宮になっても問題無い筈だ。
そこまで信房は考えた。
比叡山や高野山は、そもそも女人禁制では?というツッコミの嵐が起きそうですが。
この世界では、「皇軍来訪」によって女人禁制では無くなっている、ということでお願いします。
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