プロローグ―4
そんなやり取りを今上陛下と鷹司(上里)美子がしていた頃、伊達政宗首相は、宇喜多秀家副首相と密談をしていた。
尚、その場には、伊達首相の第一公設秘書である広橋愛でさえおらず、完全に二人きりになっている。
「何事ですか。完全に二人きりで話し合いたいこととは」
宇喜多副首相は、不機嫌極まりないといえる伊達首相に問いかけた。
「帝がトンデモナイことを言った」
「今上陛下が」
伊達首相の返答を、それとなく注意する意図もあって、宇喜多副首相は言葉を返した。
幾ら二人きりの場とはいえ、今上陛下を帝と呼ぶのは、不敬極まりない。
だが、伊達首相の憤りは、却って高まったようだ。
「1622年の総選挙で労農党が勝利をしても、其方を首相に指名しないとのことだ」
「何故に」
「8年もやれば充分であろう。これまで全ての首相が8年で辞めておる。他の者に譲れと言われた」
「そんな。今上陛下は実際の政治には関与してはならぬ、が日本の憲政の常道です。それに労農党が勝利した場合、労農党が一枚岩ならば、衆議院がその指名を拒否して終わりでは」
「普通ならな」
「そもそも誰を首相に、今上陛下は指名するつもりなのです」
「鷹司美子だ」
「えっ」
伊達首相の言葉に、宇喜多副首相は絶句した。
「鷹司美子は貴族院議員だ。しかも従三位の官位を持つ終身議員だ。最近の貴族院の情勢からすれば、満場一致で、貴族院は鷹司美子を首相として認めるぞ」
「確かに」
「貴族院が満場一致で認めた首相、鷹司美子を、衆議院が、更に労農党が一枚岩で拒否できるか?」
「確かに」
伊達首相の追い討ちに、宇喜多副首相は徐々に頭を抱え込むような返答をせざるを得ない。
鷹司美子は、言うまでもなく織田信長元首相の義理の姪になり、更に二条昭実元首相の姪にもなる。
労農党の多くの衆議院議員が、鷹司美子に親近感を覚えるのが目に見えている。
幾ら伊達首相が、労農党内部の引き締めを図ろうとも、今上陛下の指名であり、貴族院の承認があっては、多くの労農党の衆議院議員が、鷹司美子首相に賛成投票をする公算が高い。
そうなっては、労農党が分裂、崩壊する危険さえある。
宇喜多副首相は、その頭脳から、その大きな危険性を察知した。
更に伊達首相は追い討ちを掛けた。
「帝め。怖ろしいことを言いおった。保守党の上杉党首や中国保守党の毛利党首に、それとなく公家のつながりを介して伝えたところ、鷹司美子首相案に同意すると言ってきたとな。この際、史上初の挙国一致内閣を創っても良いのではないかと」
「そんな怖ろしいことを」
宇喜多副首相の背中は更に冷たくなった。
考えてみれば、保守党の上杉景勝党首も、中国保守党の毛利輝元党首も高齢批判が絶えず、自らが首相になるのが難しい現実がある。
そうした中で、30歳を過ぎたばかりの若さ溢れる女性、鷹司美子を、新首相として支持すれば。
高齢者、男性優遇批判を受けがちな保守党系にしてみれば、大きく印象を変えることができて、国民の支持率回復を望むことが出来るという訳か。
更に言えば、鷹司美子の政治的才能に関して、政宗も秀家も疑問の余地はない。
それこそ今上陛下の縁談をまとめたのは19歳の時だし、先年も更なる宇宙開発の投資をローマ帝国等に促すことで、明への介入を妨害する剛腕ぶりだ。
鷹司美子が首相に成ったら、美子がその気になれば、一党独裁国家に日本を変えることさえ可能なのではないか。
そこまで秀家は考えた。
「本当にどうしますか」
「貴族院の権限縮小等を帝に提言することで、このことについて、懸命に話を逸らしたが、何としても鷹司美子首相誕生は阻止する」
秀家の問いかけに、政宗は即答し、秀家もその言葉に肯かざるを得なかった。
次話で明かしますが、今上(後水尾天皇)陛下の真意は、実は別にあります。
とはいえ、こんなことを今上陛下から仰せられては、伊達政宗首相は動かざるを得ないのです。
そして、次章以降で色々と物事が動くことになります。
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