表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1676/1800

第82章―6

 そんな風に鷹司信尚と美子が、夫婦の会話をしているのを、今上(後水尾天皇)陛下は、何とも言えない想いをしながら、見守らざるを得なかった。

 後数年の辛抱の筈、そうすれば、信尚は死んで、自分が美子と結婚し、美子を中宮に冊立するのに障碍は無くなる筈だ。

 それまでは、黙って辛抱しよう。

 それにしても、本当に信尚は薨去するのだろうか。

 特に病の噂も無いようだし、今日も元気に鷹狩りに興じているようだが。


 だが、その一方、自分と美子が結婚した場合、信尚と美子の間の子は、どうすべきだろうか。

 皇居で引き取るべきだろうか。

 その辺りは、追って考えるべきだろう。


 そんな風に今上陛下が考えていると、信尚が奏上して来た。

「兎は多産の象徴。我が家で仕留めた兎3羽をお贈りしましょう。どうか御上と后の間に、多くの子が恵まれますように」

「おお、それは有難い。千江も18歳になった。余り若くして子を産むのは差し障りが多い、と医師が言うので房事(性交)を控えていたのだが。そろそろ子作りに励んでみよう。鷹司家からの兎の進物を受け取れば、きっと后は元気な皇子女に恵まれよう。それならば、この山鳥を引き換えに渡そう」

「それは一番の獲物。その横の山鳥で充分です」

「何を言う。多産の象徴の兎を3羽も贈られた返礼だ」

「そこまで言われるのならば」

 今上陛下と信尚のやり取りは一段落し、そのやり取りを聞いた千江と美子は微笑みを交わした。


 他にも幾つかの獲物をお互いに交換した後、鷹狩りを終えて、それぞれは鷹匠たちと共に帰宅した。

 鷹狩り場で獲物について、応急の処置は済ませるが、それ以上のこととなると、やはり帰宅して台所等で捌かざるを得ない。

 それぞれのところでは、料理人等が腕を振るうことになった。


 そして、皇居では。

「この兎料理は初めて食べるな」

「養母(のエウドキヤ女帝)が、ローマに滞在したときに、そこの料理人が作ったモノで、お前にも食べさせたいとして伝えてきたのを、作らせてみました。ローマの方では、このように食べるとか」

「ほう」

 ハーブをふんだんに使った煮込み料理で、ハーブの香りが兎肉と合っており、本当に美味い。

 今上陛下と千江は、兎肉を美味しく味わった。


「それでは、(房事を)頑張らねばな。其方の姉達は、早く甥姪に会いたいだろう。その為にも、兎を贈ったのだろうからな」

「そうですわね」

 二人は更に会話を交わして、同衾した。


 さて、九条家は九条家で、色々と子どもらを交えて賑やかに過ごし。

 鷹司家は、鷹司家で賑やかに過ごすことになった。

 今上陛下から賜った山鳥の左右どちらの太腿肉を、誰が食べるのか。

 教平と松一は、お互いに競い合った末、くじ引きまでする羽目になった。

 そして、左右どちらの腿肉が美味いかまで、兄弟の議論は白熱して、信尚と美子は暖かく見守った。


 その一方、信尚と美子は、娘の智子と共に兎肉の吸い物を味わっていた。

 智子は、美子が17歳の時に産んだ子で、今では初等部に通いだした身である。

「後、10年もしない内に縁談が来るだろうな。誰と結婚するかな」

「気が早い話をしますね。私としては、一条昭良殿は如何か、と考えますが」

「確かに摂家の一条家の当主だし、3歳差だな。確かに良い話になりそうだ」

(一条昭良は1605年生、鷹司智子は1608年生です)

 夫婦は暖かい会話を交わし、それを聞いた智子も微笑んだ。


 そして、兄弟の議論は結論が出る前に、二人のまぶたが垂れて寝入ることになり、智子も寝入った。

(尚、鷹司信房やその妻の輝子は別途、夫婦で食事を楽しんでいた)


 そして、信尚と美子は、

「さて、子どもをつくるかな」

「今度は双子とかはどうですか」

と会話を交わして同衾した。 

 ご感想等をお待ちしています。


(尚、最初は鷹司信房らも、鷹司信尚や美子らの食事の場に居たのですが、野暮な気がして、別の場で食事をしていることにしました)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こういう和気藹々も良いですね。 [気になる点] 今上陛下の心中。本当になったらいろいろ不味い気がします。
[良い点]  ミカドの美子さんへの思慕がこれまでと比べ濃ゆく滲み出た今話(・Д・)対面に居る信尚さんに毛ほども気がつかれていない辺り凄い精神力だよなー。 [気になる点]  鷹司の家風に完全に馴染んでる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ