第81章―25
そんなやり取りがあったこと等、トラック基地にいる面々にしてみれば、知る由も無いことだった。
トラック基地の面々の殆どにしてみれば、月面到達までは何とかなるだろうが、それ以上の宇宙開発、太陽や更なる外宇宙の惑星探査等は、徐々に小規模化するだろう、と予測していたのに。
北米共和国やローマ帝国から、更なる資金等の提供が発表されて、驚くしか無かった。
「聞いたか。娘のおねだりを、親が聞いたのが発端らしいぞ」
「自分も聞いた」
そんなやり取りが、トラック基地のそこかしこで為されていた。
尚、その中にはガリレオやケプラーもいる。
「火星等の探査にお金を出してほしい、と徳川千江や九条完子が言って、徳川秀忠大統領はそのおねだりを受け入れて、更に養母のエウドキヤ女帝まで、娘が言うのなら、とお金を出すことにしたとか」
「やれやれ、史上最大のおねだりだな。自分の娘が、玩具が欲しい、というのが何とも可愛く想える」
「全くだ」
ガリレオやケプラーはそう言って、苦笑いをするしか無かった。
尚、この話をトラック基地内に流したのは、上里秀勝だった。
北米共和国やローマ帝国の申し入れの裏事情、徳川千江らのおねだりが発端と言うのを聞いて、そういう事情か、と秀勝はトラック基地内に広めることにしたのだ。
その一方で、秀勝は考えざるを得なかった。
結果的に宇宙開発が順調に進むことになったのが、本当に有難いが。
何しろ日本は対明戦争の後始末があることから、資金等の提供が縮小するやも、と考えていたのが、北米共和国やローマ帝国のお陰で、充分に補いが付くことになったからな。
更に言えば、この件ではどうも、日本政府の裏の策謀が働いた気がしてならないな。
恐らくいとこ、伊達政宗首相が裏働きをしたのだろう。
秀勝はそこまで考えたが。
確かにいとこが裏働きをしていたが、鷹司(上里)美子がやったとは、秀勝には考えが回らなかった。
さて、ところ変わって、日本の宮中では。
「太陽や火星の探査等が、本来の世界各国共同で、という方向になって本当に良かったです」
美子は平然と今上(後水尾天皇)陛下に言上していた。
その横では、皇后陛下の徳川千江も素直に微笑んでいる。
本当に手紙を2通書くだけで、こうなるとは。
千江としてみれば驚くしかないが、全部上手くいってよかった、と素直に喜んでいた。
だが、今上陛下は美子の裏の狙いに気づいていたようで。
「本当に宇宙開発を進捗させるためだけにやったのか」
「勿論(嘘)です」
「そうだろうな」
意味深な微笑みを浮かべながら、美子に答え。
美子は美子で、(内心で)舌を出していた。
「まあ良い。ところで、今度の週末には、鷹狩りに何人かで行こう。今のところは、冬とはいえ、それなりの好天に恵まれるとのことだしな」
「善きことですね」
「(鷹司)信尚と共に、夫婦で参加してほしい。勿論、千江も連れて行く」
「分かりました」
「鷹狩りとは、良い気分転換になりますね。山野を駆け巡ることになり、景色も序でに楽しめますし」
今上陛下と美子の会話に、千江も参加して、3人は週末の鷹狩りの計画を話し合った。
鷹狩りは、(この世界では)上流階級の趣味として、それこそ世界的に男女を問わず、人気のある趣味になっている。
現実世界で言えば、ゴルフに似たような扱いで、皇室や摂家のような富裕な家等に至っては、その為の使用人、鷹匠を特に雇って、鷹の世話をさせている程だ。
千江は自らの祖父、家康が鷹狩りを第一の趣味にしていたことから、鷹狩りには慣れ親しんでいて、鷹狩りに赴くのを、常に楽しみにしている。
尚、美子は、本来的には鷹狩りに縁が無かった筈なのだが、今ではそれなりに楽しむようになっていた。
これで、第81章を終えて、第14部のエピローグを兼ねた第82章になります。
詳細は割烹で書きますが、私としては、鷹司信尚と美子夫妻の仲を本編で余り描けていないこと等から、この際に第82章で描くことにしました。
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