第81章―24
「急に私を呼び出すとは何事かしら。今上(後水尾天皇)陛下のお召しが、尚侍の私にあったことさえ、それどころではありません、首相からの緊急の呼び出しです、と使者が言ったのだけれど。首相の方が、今上陛下より上とでも言いたいの。今上陛下を蔑ろにするにも、程があるわね」
鷹司(上里)美子は、伊達政宗首相と顔を合わせるなり、いきなり声を荒げた。
「いや、そんなつもりはありませんが」
まさか、今上陛下からのお召しがあった段階で、使者が到着していたとは、更に結果的に、首相からの呼び出しを尚侍に優先させる事態を引き起こしたとは。
首相が今上陛下に不敬を働いた、と言われても当然で、伊達首相は思わず美子に弁解してしまった。
尚、これは全くのハッタリだった。
美子とて、伊達首相から呼び出される事由は重々承知している。
下手をすれば、自らが糾弾される事態になりかねない。
少しでも心理的優位に立つために、美子は伊達首相に先制攻撃を仕掛けたのだ。
「それで、一体、何事なの」
「宇宙開発を協働で更に進めよう、と北米共和国やローマ帝国が言い出した件です。何かされたのでは」
「ちょっと祖父におねだりをしてもらっただけよ」
「祖父におねだり?」
「九条完子と皇后陛下に、徳川家康元大統領に宇宙開発を進めるようにおねだりをしてもらって、皇后陛下は、それをエウドキヤ女帝に知らせただけ。これの何処に問題があるの」
美子と伊達首相はやり取りした。
「本当ですか」
「本当よ。何だったら、幾らでも調べてくれても結構よ」
実の従兄妹ということもあり、美子は伊達首相に、ざっくばらんなやり取りをした。
尚、これは全くの本当だ、
だから、美子にしてみれば、痛くもかゆくもない話だ。
一方、伊達首相の方は考え込む羽目になった。
この美子の行動を咎められるか、というと、どうにも咎められない。
それこそ美子がお願いごとをして、孫娘二人がそこから祖父におねだりをし、更にその内の一人が養母にそれを伝えただけだ。
後は、北米共和国やローマ帝国が勝手に動いた、としか言いようがない。
伊達首相が考え込むのを、半ば無視して、美子は独り言を言った。
「北米共和国やローマ帝国が宇宙開発に更に投資をしてくれて、本当に良かったわ。これで、対明帝国戦争の後始末に、北米共和国やローマ帝国がお金等を突っ込んでくるのを、少しは妨害できるわね」
それが真の狙いか。
美子の言葉を聞いた瞬間、伊達首相の脳裏には電撃が奔る想いがした。
それを聞いた宇喜多秀家副首相も、呆然とした表情を浮かべた。
確かに更なる宇宙開発に資金等を投じれば、他のことに資金等を投じる余裕が無くなるのは自明の理としか、言いようがない。
対明帝国戦争の後始末、明帝国内の復興事業に協力する、と表向きは言いつつ、色々と反日工作等を明帝国の内外に対して、北米共和国やローマ帝国が仕掛けてくる公算は大なのだ。
そして、宇宙開発に資金等をつぎ込ませることで、間接的に反日工作等を北米共和国やローマ帝国が行うのを、美子は妨害したのだ。
「それで、私の行動の何処に問題があるのかしら」
「いえ、取りあえずは無いようです。唯、裏は取らせて貰います」
「どうぞ、ご随意に。それでは、今上陛下の御前に今から参上するわ」
美子は、そう言って伊達首相の前を去っていった。
残された伊達首相と宇喜多副首相は、改めて語り合った。
「恐らく全て本当だな。幾ら裏を取っても無駄だろうが、一応はやるか」
「そうですね。それにしても、宇宙開発を示唆し、間接的に反日工作を妨害するとは」
「本当に尚侍は伯母(の織田(三条)美子)の秘密の孫の気がしてきたな」
「全くです」
二人は呆然とせざるを得なかった。
尚侍の美子の真意、間接的にローマ帝国や北米共和国の反日工作を妨害した、というのを、伊達首相らが公表できるのか、というと対内外関係から決して公表できません。
そうしてことから、美子の行動を伊達首相らは黙認せざるを得ず、呆然とするしかありませんでした。
ご感想等をお待ちしています。




