第81章―23
さて、そんな動きが急激に北米共和国やローマ帝国で起こったことは、伊達政宗首相率いる日本政府の目を白黒させた、と言っても過言では無かった。
「太陽探査を日本単独でやる筈だったのだが、北米共和国が協力を暗に申し出て、更にその動きにローマ帝国がくちばしを挟んで来て、結果的に世界各国の共同に、これ以降の様々な宇宙探査が何故になってしまったのでしょう」
宇喜多秀家副首相といえども困惑する事態だった。
「恐らく、尚侍(の鷹司(上里)美子)が裏で動いたな」
政宗はそう呟くように言った。
「尚侍の意向ですか。幾ら何でも外国、北米共和国やローマ帝国を、尚侍が動かせる筈が」
秀家はそう言い続けたが、政宗は身振りでそれ以上の言葉を止めて、更に呟いた。
「尚侍が、皇后陛下(の徳川千江)や九条完子と親密な仲なのを忘れたのか」
「確かに言われてみれば」
秀家とて、思わず棒を呑んだような口を利かざるを得ない。
実際、尚侍の美子と完子は、学習院の初等部以来の幼馴染の親友だ。
更に言えば、美子と皇后陛下の千江も、いつの間にか、美子を千江が、
「御姉様」
と慕う関係になっているのだ。
だから、美子がそういった関係を積極的に活用すれば、北米共和国やローマ帝国を動かすことは十二分に可能な話になるのだ。
何しろ、完子と千江は、北米共和国の現大統領の徳川秀忠の娘なのだ。
又、千江はローマ帝国のエウドキヤ女帝の養女になるのだから。
更に言えば、宮中と日本政府は峻別されているが、宮中が外国政府に働きかけることが、絶対に許されないことなのか、というと悩ましいことになる。
そして、今回の場合、宮中がまとまって動いた訳ではなく、尚侍が個人的に友人と話をしただけで、更にそれが結果的に、外国政府を動かしたと言い抜けることさえも十分に可能なことだった。
「それで、今後のことはどうされるつもりですか」
秀家は少なからず悩んだ末に、政宗に問いただした。
「尚侍にこの件について問いただす。君も同席してくれ」
政宗は不機嫌なのを隠そうともせず、秀家にそう言い放った。
秀家とて、この件では不機嫌にならざるを得ないが、政宗の態度も御尤も、と考えざるを得ない。
何しろ、自分達を無視して、いつの間にか、世界各国共同で宇宙開発を行う話が進捗しているのだ。
更にそれを推進したのが、尚侍とあっては、日本政府を無視して行動するな、と政宗が尚侍を問い詰めるのも当然だし、自分も同席して、尚侍の真意を問いたださざるを得ない。
「分かりました。ところで、それは何時のことでしょうか」
「今すぐに尚侍を、此処に呼び出す。だから、少し待ってくれ」
「分かりました」
秀家の問いかけに、政宗は怒りを秘めた答えをして、秀家も政宗の怒りの深刻さを感じて即答した。
そして、秀家は少なからず他所事が混じった考えをせずにはいられなかった。
首相がここまで怒るとは、本当に激怒している、としか言いようがない。
その一方で、尚侍の美子ならば、この首相の怒りをやり過ごして、結果的に首相を宥めてしまう気が自分はしてならない。
何しろ、尚侍の美子は、織田(三条)美子の秘密の孫娘という噂があり、自分もその通りではないか、と考える程の頭の持ち主なのだから。
何しろ恋敵といってよい皇后陛下の徳川千江が、
「御姉様」
と慕う程の頭の持ち主に、尚侍の美子はなるのだから。
感情論で敵対する相手さえも、宥めてしまえる頭の持ち主は、本当に稀な存在だ。
そうしたことからすれば、尚侍は首相を易々と言いくるめてしまいそうな気さえも、自分はするな。
秀家は、そんな他所事を考えながら、首相の呼び出しに応えて、尚侍の美子がこの場に来るのを暫くの間、待つ羽目になった。
何でここまで、伊達政宗首相が怒っているの?
と思われそうなので、少し補足説明を。
伊達首相にしてみれば、鷹司(上里)美子が、既述のやり取りからして動くとは考えていましたが、ここまで動くとは全くの想定外で、宮中が国際政治に関わるな、という筋論から激怒しています。
尚、次話で明かしますが、美子なりに筋は通しており、伊達首相は黙る事態になります。
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