第81章―21
「孫娘二人が何を言って来るのか、と思えば。飛んだおねだりだったな」
徳川家康は、千江や九条完子からの手紙に目を細めながら言った。
「本来ならば、二人の父に言うべきだろうに。だが、あいつはケチだからな。儂におねだりした、という訳か」
自分の方がもっとケチなのを棚に上げて、家康は息子の秀忠をそう評した。
更に自分の身体のことが、自分の考えの中に浮かんだ。
自分としては、最近の体調不良について寄生虫病だと考えたいが、主治医の片山宗哲に言わせれば、胃ガンの可能性が高いという。
もし、本当に胃ガンだったら、恐らく後1年も生きられまい。
片山宗哲からは、精密検査の上で手術すれば、恐らくは更に長命できます、とも言われたが。
「親友(の織田信長)が、この世を去って幾星霜だ。他にも多くの知人が世を去って、寂しくなる一方だ。腹を切ってまで、これ以上の長命をしても、更に寂しくなるだけだろう。むしろ、あの世で親友や知人にそろそろ会いたいものだ」
そう口に出して言いながら、他所事までもが家康の頭の中に浮かんだ。
親友の妻(織田(三条)美子)は、自分より年上なのに、未だに元気だ。
本当に九尾の狐の化身で、不死身なのやもしれぬ。
それはともかくとして。
「孫のおねだりをきくのは、祖父の特権だ。孫のおねだりを聞いて、動いてやるかな」
そう家康は腹を決めて、動くことにした。
「本多正純を介して、どのような仰せがあったのです」
「うん。儂の娘二人のおねだりを聞いてやれ、とのことだ」
徳川秀忠大統領と、大久保正隣国務長官は禅問答のような会話を最初に交わした。
尚、本多正純は高齢になった父の本多正信の跡を継いだというと語弊があるが、徳川家康の執事頭のような立場を今は務めており、家康の要望を周囲に伝えることが多い。
「儂の娘二人とは、九条完子様と徳川千江様のことで」
「その通りだ。宇宙開発に更なる投資をしてほしい、とのことだ」
「一体、何のために。どう考えても、近い将来に利益が出ることではありませんが」
「ローマ帝国が火星の植民地化を図るのなら、北米共和国もそれにすぐに対応できるようにすべきでは、と完子と千江が言ってきた。儂も二人に賛同する。金を宇宙開発に出してやれと、父は言っておる」
二人は更なる会話を交わした。
「そんな金、どう考えても当面は無駄金ですよ。むしろ、宇宙開発は縮小すべきでしょうに」
正隣は能吏として、ある意味では模範解答をしたが、秀忠は渋い顔をしながら、言わざるを得なかった。
「儂がそう言ったら、武田家等が絶対に言いだすぞ。ローマ帝国に遅れるな。北米共和国も出資すべきだ、国辱だ等々とな。完子と千江は、鷹司(上里)美子を介して、武田家等を煽るのでは、とも父は示唆している。儂もその危険は否定できん」
「確かに」
二人は会話しながら、思考を進めた。
宇宙開発への資金等の提供は国威を高めると共に、遥かな将来の宇宙への侵出を図るモノでもある。
日本ならば、まだしも目を瞑れるが、ローマ帝国の後塵を拝しては、武田家等が騒ぎかねない。
更に言えば、鷹司(上里)美子は、前大統領の武田信光の従妹であり、それなりに親しい間柄である。
それを考えれば、家康が言うのも、それなりに正しいのだ。
「飛んだ娘達ですな。父を煽って国費を遣わせようとは」
暫く考えた末、とうとう、正隣は溜息を吐きながら言った。
本音では浪費としか言いようがない、だが、どうにも止める理由が無いのだ。
「全くだ」
秀忠も溜息を吐くしか無かった。
その一方で、二人は考えた。
この我が国の行動に対して、ローマ帝国はどう動くのだろうか。
ローマ帝国も、更に宇宙開発への出資等を行う事態が起きそうな気がする。
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