第81章―19
そんな風に、様々な人の思惑が錯綜した末に、太陽探査が日本独自で行われることになる筈だった。
尚、表向きは、伊達政宗首相率いる日本政府による科学研究の一環ということになったが、少し裏に回れば、鷹司(上里)美子尚侍が、今上(後水尾天皇)陛下を唆し、今上陛下が伊達首相に命じたために、太陽探査が行われることになった、という噂が流布する事態が起きて。
「何で私が太陽探査を唆したことになっているの」
「尚侍が泥を被るのが、一番、無難だからですよ」
「私を夏の桀王の愛妾の妹喜、殷の紂王の愛妾の妲己、周の幽王の愛妾の褒姒とでも言いたいの」
「いえ、それを遥かに尚侍は上回りますよ。その3人は、太陽探査の為に国費を使うようなことは、全くしていませんからね」
尚侍の美子は、伊達首相の下に怒鳴り込んで、そんなやり取りを二人は行う事態になった。
「実の従妹を、そこまでの傾城傾国の美女にしたい訳」
「実際、宇宙開発の金を余りにも突っ込んでは、国の財政が傾く事態になりますからね」
「だからといって、私に泥を被せるの」
「今上陛下に泥を被せる訳には行かない以上、宮中の誰かが泥を被るのが当然でしょう」
「首相の貴方の判断で、太陽探査をやったことにすればよいでしょうに」
「そんなことをしたら、次の選挙で与党の労農党が敗北しかねないので。そう言った点でも、選挙に縁のない尚侍が泥を被るのが都合が良いのですよ」
二人のやり取りは、更に微妙なものになった。
(註、度々の既述になるが、尚侍は従三位以上の官位を帯びるので、必然的に美子は25歳以上になれば貴族院議員になる。
そのために、選挙とは無縁の身に、尚侍である美子は既に成っているのだ)
「分かったわ。それなら、それなりのことを私はするわ」
「何を為されるのです」
「皇后陛下を通じて、ローマ帝国や北米共和国を唆すわ。太陽探査とか、それ以上のことを協働してしませんか。日本だけがやる、というのも業腹な事態になりかねませんよ、とね」
「そんな宮中が、国際政治に関わるようなことをしてもよいと」
美子の言葉に、伊達首相は反論しかけたが、美子の反論が先んじた。
「太陽探査に関して、私が言ったとか、宮中を悪用しよう、と日本政府が行動しようとしているのに、いざとなったら、宮中は国際政治に関わるな、と日本政府がいうとか。御都合主義も極まれりね」
実の従兄妹関係にある事も相まって、美子は痛烈な反論、皮肉を政宗に放った。
さしもの政宗も、美子の皮肉には沈黙せざるを得なかったが。
その一方で、要らぬことも考えざるを得なかった。
本当に鷹司(上里)美子は、自らの伯母になる織田(三条)美子とは赤の他人なのだろうか。
実は伯父の上里勝利が言うように、鷹司(上里)美子は、織田(三条)美子の秘密の孫なのでは。
何しろ24歳も年下なのに、自分と対等の口を美子はきくのだから。
(少し余談をすれば。
伊達政宗は1567年生まれ、鷹司(上里)美子は1591年生まれになる。
だから、48歳の日本の首相に、24歳の尚侍が対等の口をきいていることになる)
「分かりましたよ。もう勝手にやって下さい。どうせ、私が止めても無視するでしょう」
「あら、酷い話を聞いたわ。首相である貴方が言えば、黙って私は従うつもりだけど」
「その代わり、太陽探査で貴方が言い出した、というのを止めろ、それどころか、それを積極的に否定しろ、と言われるつもりでしょう」
「話が早くて助かるわ。何で私が泥を被らされるのかしら」
「そういう態度を執られるからですよ」
実の従兄妹関係と言うことも相まって、政宗と美子は腹蔵なしのやり取りに至った。
「それでは、やらせて貰うわね」
美子は言い放った。
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