第81章―17
そんな思惑が、伊達政宗首相と宇喜多秀家副首相が交わされているのと相前後して、今上(後水尾天皇)陛下と尚侍の鷹司(上里)美子は、今後の宇宙開発についての雑談を交わしていた。
「後、5年もすれば、上手く行けばだが、人類が月に到達するらしいな」
「そのようですね」
二人は、トラック基地から送られてきた宇宙開発の現況についてのレポートに共に目を通した上で、そのような会話を交わしだした。
尚、その場には、皇后陛下の徳川千江もいるのだが、微妙に二人の会話に付いていけず、黙って傍に居る状況になっている。
千江とて、決して頭は悪くないのだが、美子にはとても及ばない。
更に言えば、今上陛下が、美子と会話が出来るように、と懸命に努力しているのに対して、千江はそこまでの努力をしていないので、そうした点でも、二人の会話に聞き入るだけになっている。
(尚、この状況について、千江とて、色々と考えるところはあるのだが。
自分が懸命に努力しても、とても美子には敵わない、と諦めざるを得ないのを自認しているし、美子を御姉様、と自らも慕っている現実がある。
だから、二人の傍に、千江は黙って居ることが増えていた。
更に言えば、こういった状況にあることが、何とも皮肉なことに、今上陛下と美子の醜聞が起きない事態を引き起こしてもいた。
何しろ、今上陛下と美子がいる場には、殆ど千江、皇后陛下が共にいるのだ。
そうした状況下で、今上陛下と美子が密通、姦通しているとか。
幾ら何でも勘繰り過ぎだ、として醜聞が大きくならないのも当然だった)
「本当に太陽風が実在するとは。科学の進歩は怖ろしいですね」
「全くだな。それこそ「皇軍知識」でも、考えられなかったことだな」
「その通りですね。更に言えば、天文学の話ですが、ビッグバン理論についても極少数説だったのに、多数説化しつつあるとか」
美子と今上陛下は、楽し気な会話を交わしていた。
「太陽風ですが、そもそもの話になりますが、太陽から電波やX線が出ていることさえ、「皇軍知識」では知られていないとか。更に言えば、太陽からは太陽風、太陽から大量の電気を帯びた粒子(プラズマ)が流れ出しているとか。本当に宇宙に関する知識の深化は、怖ろしいと考えます」
「全くだな。ところで、そういったことを、更に知りたいとは考えないか」
美子の言葉に、今上陛下は誘うような言葉を発した。
「知りたい、とは考えますが」
美子は微笑みながら言ったが、その後の言葉は辛辣と言われても、仕方が無かった。
「下手に知りたい、と言っては、私が楊貴妃以上に非難されそうですね。楊貴妃は多額の税金を浪費して、ライチを早馬で長安まで運ばせたことで非難されましたが、太陽風の探査は、それどころではない税金を浪費する事態を引き起こしそうです。私に泥を被れ、と仰られるのですか」
「そういった返しを、すぐにするから却って困るな」
そう言いながら、今上陛下も笑みを浮かべている。
千江は、それを見ながら、改めて想った。
本当に下手に嫉妬しづらい関係に、二人はある。
夫の今上陛下に、私の目の前で、人妻と親しく話をするな、と言いたいが。
科学の話をしているだけなのを咎められるのか、というと。
更に言えば、自分では話についていけず、美子御姉様で無いと、夫と話が交わせないのだ。
本当に何とも言えない現状だ。
そして、自分が頑張れば済む、と言われそうだが、自分では懸命に頑張っても、美子御姉様のようには、夫と様々な話を、自然にはとてもできない。
千江のそんな考えを無視して、
「私から言い出したことにすれば、尚侍は泥を被らずに済むだろう」
「とても私には信じられません」
そう二人は言い交わし合った。
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