第81章―16
さて、それと相前後して、日本では伊達政宗首相と宇喜多秀家副首相が、トラック基地からのレポートを受け取った上での宇宙開発の現状について会話を交わしていた。
「極めて順調と言えば、順調なようだな。(トラック基地の長官の上里秀勝が)自分のいとこだから甘く見てしまうのかもしれないが」
「いや、そんなことはないでしょう。実際、約10年前に人工衛星を打ち上げて、更に約5年前に人類が初めて宇宙空間にたどり着いたことを考えれば、後5年後には実際に月を目指せるやも、というのを順調と言わない訳には行かないでしょう」
「確かにそうだな」
二人は共に幼い頃から、織田信長夫妻を介して知り合った仲でもあることから気安く会話を交わした。
(既述だが、政宗は学習院初等部入学から高等部卒業までは、織田信長夫妻宅に寄寓して育ったし、秀家は実父の直家を7歳のときに失ってからは、織田信長夫妻を事実上の後見人として育ったのだ)
「ところでだ。今上(後水尾天皇)陛下から、二条昭実内大臣を介して御言葉があった。太陽を日本独自で探査することはできないか、とな」
「太陽ですか」
「我が皇室の遥かな先祖になる天照大御神がおわします太陽の調査は、日本独自でやりたいものだ、と仰せられたということだ」
「ほう」
二人のやり取りは進んだ。
「唯、気になることも二条内大臣は言った」
「何を言われたのです」
「今上陛下の言葉の裏に、尚侍の影がチラつくとな」
「何と」
政宗の言葉に、秀家は絶句した。
尚侍、言うまでもなく鷹司(上里)美子のことである。
「かつて楊貴妃を喜ばせようと、唐の玄宗皇帝は、ライチを早馬で取り寄せたそうだが、尚侍を喜ばせようと、今上(後水尾天皇)陛下は、太陽探査を言い出した気がすると、二条内大臣は仰せだった」
「確かに美子様は、様々な趣味をお持ちで、その中には占星術、天文学まであるとか。だから、美子様を喜ばせようと、今上陛下が言い出した可能性はありますが」
政宗と秀家は、更なるやり取りをした。
「それにしても、楊貴妃を喜ばせようと、ライチを早馬で取り寄せさせた玄宗皇帝の行動が、本当に児戯に見える話ですよ。太陽探査を日本が行おう、その理由が美子様を喜ばせる為とは。その為に掛かる費用ですが、完全に桁が違う話になります」
「全くだな。だが、我が日本単独で、太陽探査は出来ない話かな」
「技術的には不可能では無いですし、費用的にも困難ではありますが、不可能とは言えませんな」
「よく言ってくれた」
秀家と政宗は、そこまでやり取りをした。
「皇祖である天照大御神のことを知るため、と今上陛下が仰せられた、というのを大義名分として、太陽探査を行うことにしないか」
「何故に」
「正直に言うと、太陽探査で利益が出ないからだ。利益が出ない話を推し進めるには、それなり以上の理屈がいるからな」
「否定はしませんが」
「序でに言えば、誰かが泥を被る必要がある。鷹司(上里)美子は、そういった点で好適ではないか」
「自分の実の従妹に泥を被らせますか?後でどうなっても知りませんよ」
政宗の理屈に、秀家は呆れが入った口調で言った。
そう言いながら、秀家も政宗の理屈が分からないでも無かった。
かつては、宇宙開発は将来的に多大な利益が見込める、という思惑が働いていたが、徐々にそういった思惑が崩れつつあり、それこそ金持ちの道楽的な見方をする者が増えつつある。
そうした中で、宇宙開発をそれも日本単独で進めるとなると、それなりの理屈が必要だ。
そういったことを考えれば、今上陛下の希望を表向きの理由とし、裏では美子が泥を被るのが、日本単独で宇宙開発を進めるのに無難と政宗は考えるのか。
秀家はそう考えた。
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