第81章―15
次に北米共和国だが。
「父の目が黒い内に、月面に人類がたどり着ければ、と考えていたが、どうやら難しそうだな」
「御意」
徳川秀忠大統領と大久保忠隣国務長官は話し合っていた。
「宇宙開発のそもそもの発端を考えれば、亡くなられる前に父上はそれを残念がるだろうか」
「いえ、儂の死後とはいえど本当のことになるとは、と逆に感嘆される気がします」
「確かにそうだな」
二人の会話は更に進んだ。
二人共に、宇宙開発が始まった真の理由を知っている。
最初はキューバ等に日本が戦略爆撃機も展開できる大規模飛行場を造ったことから、北米共和国にとって重大な国防上の脅威であるとして、その対抗策として大陸間弾道弾を開発しよう、更にはその欺まん策として、宇宙開発、月面への人類到達等が掲げられたのだ。
だが、その話を聞きつけた日本やローマ帝国が共同での宇宙開発を言い出し、更にその理由として、自分の縁談、結婚に伴う贈り物であると言い張ったことから、今のような状況が生み出されたのだ。
「ところで、父上の病状はどうなのだ」
「(家康)殿自身は、自分の病気は軽い寄生虫病だと言い張って、自分で調合した虫下しばかり呑まれていますが、主治医の片山宗哲の診断によれば、恐らく胃ガンなのでは、とのことです。ただ、精密検査を拒まれるので、精確な診断ができないとのことです」
「精密検査をして、胃ガンと分かって、その手術をすれば、まだ延命できるのだろう。何故に父上は精密検査を拒まれるのだ」
「そもそも酷い医者嫌いですし、それに片山宗哲に言わせれば、物凄く手術を嫌っておられるとのこと。もう70歳過ぎまで生きて来た。それに孫娘が、日本の帝の皇后陛下に立后された。これ以上、手術を受けてまで長生きする必要はない、とまで仰せのようです」
「そうか」
二人の会話は少し逸れて進んだ。
実際、この頃の家康の病状はその通りだった。
ある程度は止むを得ないことだったが、(この世界の)家康は、それこそ北米大陸の植民地開発に若い頃から駆け回ることになって、そのためにロクな医師がいない状況で育つことになった。
そのために自分の身体は自分で治すしかない、として現代で言えば医療オタクになり、自分で自分の身体を自己診断して、自分で生薬を調合して、自分に投与する程になった。
その反動も相まって、自分の身体は自分が最もよく分かっている、として酷い医者嫌いになったのだ。
更に言えば、基本的に自分で自分の身体を手術することはできない、だから、酷く手術も嫌うということになったのだ。
孫娘の完子と千江から贈られた隼2羽を伴にして、父は未だに趣味の鷹狩りを何とか楽しめるようだが、今の状況からすれば、後1年も生きられまい。
せめて、千江が妊娠していれば、曾孫が親王になるのを見届けなくていいのですか、と父に言えるのだが、千江は未だに懐妊の気配が無い。
最も今上(後水尾天皇)陛下が千江を気遣って、千江が18歳になる今年まで閨を共にしなかったのだから、ある程度は仕方がない。
(噂では、千江が真の皇后陛下になるのを、鷹司(上里)美子が妨害したということになっているが、千江自身が否定の手紙を書き、更には肉声で、直に言ってきた。
そんなことはありません、むしろ、美子は今上(後水尾天皇)陛下に、速やかに私を真の皇后陛下にすべき、と言上したが、今上(後水尾天皇)陛下が、18歳になるまでは、と言ったとのことだ)
そんな他所事にまで、秀忠は想いを馳せる一方、改めて考えた。
月に加えて、金星や火星も徐々に分かりつつある。
他の天体についての探査は、どのように進んでいくのだろうか。
日本は無人探査機を、他の天体に送るのだろうか。
この世界で片山宗哲が家康の主治医になるか、というと難しいですが、そこは物語ということで、緩く見て下さい。
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