第81章―13
そんなこんなの問題を抱えつつ、トラック基地を中心にして、人類初の月面有人探査を目指しての努力を続けているのが、1615年当時の現実としか、言いようが無かった。
それこそバフィンやルメールといった宇宙飛行士達に言わせれば、これこそ自分達の本懐を果たせたと言える宇宙船の操縦どころか、宇宙遊泳さえも1615年当時には、何とかというレベルではあったが、成功することが出来ていた。
そして、宇宙船同士のランデブーやドッキングにも、地球軌道上で成功することが出来てはいた。
だが、それはあくまでも地球の傍、地球の軌道上で成功したということに過ぎず、月にまで実際に人類が赴くということになると、まだ路は半ばどころか、遥かに遠いと現場では考えているのが現実だった。
そういった様々なことを、ガリレオとケプラーを中心とする科学者の面々は、レポートをまとめながら、考えざるを得なかった。
勿論、奇跡と言って良い程に、ここまで宇宙開発が順調に進んでいる、と自分達は考えている。
それなりどころではない、様々な人や金、モノが投入されることで、宇宙開発は進歩を続けている。
だが、その一方で、そういった様々な人や金、モノに見合う成果が挙がっている、と胸を張って言えるのか、といえば、自分達が振り返ってみる限り、充分な成果が挙がっていると言えるだろうか。
これまでの宇宙開発の成果から、充分な利益が挙がっているとは言い難い。
勿論、様々な科学的な知見は得られており、そういった面での成果は大きいが、それが利益を生み出すようなことか、と反問されれば、自分達は黙らざるを得ない。
更に有人計画を推進するということは、それなり以上に人や金、モノを投入することになる。
月面探査までは有人計画が推進されるだろうが、それ以上の有人探査計画、具体的には金星や火星の有人探査は、大幅な様々な費用や時間といったコスト削減等ができるまで見送られるのではないか。
レポートをまとめるにつれて、そんな想いが、ガリレオとケプラーを中心とする科学者たちの間には漂うように徐々になっていかざるを得なかった。
そして、そんな想いが漂った果てに、すっかり科学者達の間の空気は重くなってしまった。
そんな空気を察したガリレオが、声を挙げた。
「どうも重い嫌な空気が漂っている。今日は、ここまでにして、明日以降にしよう」
「そうだな。今日はここまでだ」
ケプラーも阿吽の呼吸で、そう声を挙げた。
実際、どうしても今日中にレポートをまとめる必要はない。
そうしたことから、ガリレオとケプラーの声に応じて、レポートのまとめは一旦は終わった。
そして、強引に終わった後、ガリレオとケプラーは、気分転換の為にタバコを吸いながら話をした。
「実際、どうなるかな。月には何としても人類はたどり着けるだろうが、それ以上の有人探査は、少なくとも数十年先になる気がしてきた」
「自分もそう考える」
ガリレオの言葉に、ケプラーは手短に返した。
「ともかく宇宙探査で利益が当面は上がらないのが分かって来たからな。これまでの経緯から、月面到達は何とか果たせるだろうが、それ以上のことは中々進まないだろう」
「結局のところは、利益が上がるか否かか」
ケプラーは更に言い、ガリレオは不機嫌に言わざるを得なかった。
「パトロンはそんなモノだ。利益が挙がらないと、途端に金をケチるのが当然だ」
「確かにその通りだな」
ケプラーの皮肉に、ガリレオは苦笑いしながら言った。
その苦笑いに、ケプラーも苦笑いで返した。
「何とか月には人を送り届けよう。そして、子ども達にそれを誇ろうではないか」
「それが自分達の精一杯なのだろうな」
二人は改めてそう語り合った。
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