第81章―11
そういった金星や火星の探査状況から、少なくとも太陽系内には知的生命体は存在しないようだ、というのが、徐々に世界の人々に広まりつつあった。
(尚、月には大気が無い以上、知的生命体が進化するのは、そもそも不可能と考えられていた)
金星や火星以外の太陽系内の惑星や衛星は、それよりも更に生命体に過酷な状況なのは間違いないからだ。
勿論、過酷な状況下、それこそ地球上で言えば深海や氷点下の世界でも生命体は存在できるので、火星や金星に生命体が存在する可能性が皆無とは言えないが、そういった生命体が知的生命体にまで進化できるのか、というと。
不可能とまでは言わないが、まずアリエナイと考える人が圧倒的多数だったのだ。
そういった月や金星、火星探査の現状について、改めて詳しいレポートがまとめられる一方。
月への有人探査というより、宇宙船の開発等の進捗状況についても、現状がレポートとしてまとめられ、各国政府等への報告書として作成されていた。
さて、月に赴くとなると一人乗りの宇宙船では困難で、少なくとも二人乗り、できれば三人乗りの必要があると考えられていた。
何故かというと、特に月面着陸の方法からだった。
月、月面に人類を送り込むとして、どのようにすべきか。
(史実と同様に)様々な方法が、トラック基地の内外から提案され、又、検討された。
月面に直接、単体の宇宙船を着陸させる方法や、地球軌道上で月面着陸船を建造して着陸させる方法、月面に先に無人着陸船を到達させ、そこから燃料等の補給を受けて、有人の月面着陸船を月面から発射する方法、(そして、史実同様の、超要約した説明だが)司令船と着陸船を同時に打ち上げ、司令船は月周回軌道に留まり、着陸船を降下、再発射することで、月面に着陸を果たす方法。
(細かく言えば、更に細部の違いがあるし、併用するという提案まであるが)この4つの方法が、月面に人類を送り込む方法として、比較検討されたのだ。
それぞれ一長一短があり、激論が交わされることになった。
例えば、月面に直接、単体の宇宙船を着陸させる方法だが、全てを地球上で組み立てて発射する関係から、宇宙空間で宇宙船をドッキングさせる等のリスクが無い利点があった。
だが、その代償として、それこそメタい話をすれば、現実の21世紀の技術でも困難な超大型ロケットを開発、製造する必要があった。
そして、それに掛かる費用や時間といったコストは膨大なモノになる。
こういった批判が行われた結果、月面に直接、単体の宇宙船を着陸させる方法は放棄された。
そういった激論の末、長期的には高額になるかもしれないが、一番、早く安く月面に到達する方法だとして(この世界でも)採用されたのが、司令船と着陸船を同時に打ち上げ、司令船は月周回軌道に留まり、着陸船を降下、再発射することで、月面に着陸を果たす方法だった。
だが、この方法にも批判が起きるのは止むを得ない話だった。
何しろ宇宙空間で司令船と着陸船を分離し、更にドッキングさせる必要がある。
そして、十中八、九、宇宙船外での作業、要するに宇宙遊泳をする事態を想定する必要性が高いと推測される一方で、宇宙空間で宇宙船の分離、ドッキング作業や、宇宙遊泳をこれまで行ったことが無いと言う現実があるのだ。
そういったことを同時並行的に進めることで、月面の有人探査を早期に行おうという方向に、月面探査についての議論は進んでいたのだが、そうなると司令船に1人、着陸船に1人、更に万が一を考えれば、もう一人が、月面探査を行う際の宇宙飛行士の必要人員になるのは、当然の話としか言いようが無かった。
そうした準備に当時は追われる事態が起きていた。
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