第81章―10
さて、何故に火星探査が上手く行かないかだが。
まず、地球から火星までの距離がそれなりにあって、それこそ地球から電波による操作を、火星の地上なり、又は、火星の傍にいる火星探査機なりに行おうとすると、それこそ(大よそだが)20分後のことになる、という問題がある。
更に言えば、同様の場所にいる火星探査機の様々な異常を、地球側の操作者が察知するにも、同様の時間が掛かるのだ。
だから、火星探査機の異常等を察知して、地球が対応しようとすると、火星にいる探査機からすれば、40分前の事態に対応した行動を行わざるを得ない事態が起きるのだ。
こうしたことが、火星探査が上手く行かない一因である、とこの当時の地球の科学者等は考えていた。
更に言えば、火星の大気が希薄なのも、実際に火星の地上に着陸した上での探査を行うのを困難にしている要因だった。
これが月のように大気が皆無ならば、最初からパラシュート等を使っての探査機の地上着陸は無理だ、と割り切って様々なことが出来るのだが。
中途半端に火星には大気がある以上、パラシュート等を使おう、火星の大気を活用してブレーキに使おう等の発想がどうしても起きるのだ。
こういった複合要因のために火星探査は上手く進めていない、と多くの科学者等は考えていたが、そうはいっても、それなりに信頼性の高いロケットの地上爆発事故まで起きていては。
それこそ火星人の陰謀論まで出るのは、ある程度は仕方のないことだった。
閑話休題、余りにも話が逸れたので、この世界の現状における火星の状況(推測)だが。
火星の地上に溝らしきものが、地球上からの天体望遠鏡を使った観測で見えて、それが火星人が造った運河なのではないか、火星には水があって、その水が運河を流れているのではないか、という説が、「皇軍来訪」後の日本で1560年代に流れたのが発端だった。
尚、「皇軍知識」によれば、これは錯視によるもので、火星の運河はアリエナイということになってはいたのだが。
そうはいっても、「皇軍知識」が全知全能の代物でないのが、既にこの世界でも公知になっている。
(具体的に言えば、「皇軍知識」に基づいてその通りに、この世界に鉱山等が存在する訳ではない)
だから、「皇軍知識」も誤っていることがある以上、火星に運河が実はあるのでは、更には、それを根拠として、火星人がいるのでは、という説が一時ではあるが、この世界では日本を発端に世界で流布した次第だった。
だが、更なる地上からの観測が積み重なるにつれて、やはり「皇軍知識」がいうように、火星の溝らしきものは錯視なのだろう、又、電波望遠鏡も火星からいわゆる人為的な電波探知には成功しない。
このことからすれば、火星に生命が存在するとしても、それこそ人類と同等、それ以上の文明を築いた火星人は少なくとも存在しないのでは、という主張が、世界中でいわゆる通説と化していくのも当然としか言いようが無かった。
とはいえ、それでも自分の信じたい説を信じる人というのは、この世界でもいることから。
そういった人が、火星探査が上手く行かないのは、火星人による妨害のせいだ、という説を唱える事態が起きていたのだ。
そういった論争に事実上の終止符を打ったのが、現時点では1回だけ成功している火星への無人探査機の訪問だった、
火星着陸を想定せず、近傍での観測データ収集と写真撮影とに割り切った無人探査機は、それなりの成果を挙げ、火星の大気が希薄であり、火星の地表の表面温度はそういったことから氷点下何十度と推定されたことから、火星には知的生命体は存在できない、と判定されたのだ。
だが、まだ確定とまでいえないのが現状だった。
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