第81章―9
「金星に複数の探査機を何とか送り込んだが、そもそも金星到達に成功した、と何とかいえるのは半数以下だからな」
「更に言えば、実際に金星の地表面には未だに到達していないようですね」
「ここ(地球)にまで届いた観測データを分析する限り、92気圧の高気圧に加え、約500度の高温に金星の地表面は達するようだからな。そんな悪条件に耐えて、地表面にたどり着けて、更に中継点(人工衛星)があるとはいえ、ここにまでデータを継続的に送信するとなると、今の技術ではどうにも困難だ」
そんな会話を、科学者たちは交わすことになった。
実際に、探査機が金星に送り込まれるまでは、金星の地表には二つの説が主にあった。
一つは、上記のような状況を想定しているものだった。
もう一つは、金星の大気が高温高圧だろうが、そうはいっても、何とか金星の地表面は、特に極地周辺ならば30度前後で収まっており、人類が住めなくはないのではないか、という説だった。
(勿論、細かく言えば、その中間説が最多といえるのだが)
更に言えば、後者の説では、金星には生命体がいるのではないか、運(?)が良ければ、金星人がいるのではないか、という天文学者までもいたのだ。
(尚、この世界のシェークスピアの「金星の商人」は、そういった学者の説を基にして描かれた、金星人の商人が出てくるコメディ映画だったりする)
そして、ある程度の議論、話が進んだ末。
「それ位にしよう。他にもやることがある」
とのガリレオやケプラーの鶴の一声で、一旦、金星に関する議論は収まることになった。
そして、続けて報告書がまとめられることになったのが、火星だった。
火星には、二つの月があるのが判明している。
又、地球に比べれば、遥かにといえるレベルの薄い大気がある、と推測されていた。
そういった点からすれば、極めて困難ではあるが、人類の植民先として考えるならば、金星よりもまだマシといえる惑星のようには見えてはいたが。
「地球からの火星観測で、溝のようなモノが見えることから、あれは火星人が造った運河だ、火星には地球よりもはるかに優れた文明を築いた火星人がいる、というトンデモ説を唱える人達がいたが、やはり、火星にはそんな存在というか、火星人はいないようだな。1回、無人探査機が接近しただけで、断定する訳には行かないが」
「いやいや、火星人存在説を唱える人に因れば、そもそも火星探査自体が上手く行かないのは、火星人の妨害工作のせいだ、だから、火星人はいる、という話しにまで進んでいるようです」
「全く信じる者は救われる、と言う言葉があるが、何でそんな話にまで飛ぶのだ」
「でも、火星探査が上手く行っていないのは事実ですよ。それこそ、エウドキヤ女帝が私達の首を飛ばすのが先か、今上陛下が私達を南極送りにするのが先か、火星の詳細が分かるのが先か、という噂が世界で流れる程に上手く行っていない」
「そうだな」
そんな会話を、この場にいる科学者は交わした。
実際、火星探査は、(相対的に言ってだが)月や金星の探査と比較すると、上手く行っていなかった。
この1615年時点で、何とか1回、無人探査機が実際に赴いているだけ、というのが現実だった。
(勿論、地球上から熱心な観測が、複数の拠点から試みられてはいる。
だが、実際に火星に接近して、無人探査を成功させた探査機は1機だけだったのだ)
それこそ複数回の打ち上げに、既に同型機が成功しているロケットを活用した火星無人探査機の打ち上げに失敗する事態まで起きては。
そういった火星人のせいだ、という話しが出るのも当然だった。
だが、その一方で、それなりの事情が、火星探査にあるのも現実だったのだ。
この火星探査の下りですが、史実をそれなりに参考にしています。
(実際に史実でも確率論的には異常といえる程、火星探査は失敗しています)
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