第81章―8
「金星の探査の現状ですが、これで間違いないでしょうか」
この場にいる科学者の一人が、徐々に重くなった空気を跳ねのけようと声を挙げた。
その声を聞いて、多くの科学者が、その科学者を取り巻いて、金星に関する探査データを確認した。
少なからずの前置き、実際問題になるが、宇宙探査は本当に色々と大変である。
それこそ「皇軍知識」によって、様々な底上げがされているとはいえ、本来ならば万有引力どころか、落体の法則さえ、「皇軍来訪」時には全く知られていなかったのだ。
(史実において)ケプラーの三大法則が発表されたのは1619年であることを考えれば、この時代における大学者であるガリレオやケプラーにしても、「皇軍知識」からもたらされた天文学等の科学知識を完全に理解するとなると、数年掛かりに亘る事態にならざるを得なかった。
そして、「皇軍知識」からもたらされた天文学等の科学知識を活用して、宇宙探査、開発が行われていくことになったのだが。
史実でさえ苦労した宇宙探査、開発が、この世界で容易に進む訳が無かった。
何しろ、史実(の20世紀後半)と異なり、この世界では世界の大国が、ほぼ協力することになったとはいえ、そもそも人口が圧倒的に少なく、様々な制限が掛かるのは当然である。
(この世界の1615年当時、日本本国の人口は何とか3000万人に達しようか、という状況であり、世界中の人口をかき集めても、とても6億人には達していなかった。
一方、史実では1965年当時の世界人口は、約33億人と推定されている。
こういった人口による生産力の差異があっては、幾ら軍事費等にこの世界が史実の1960年代のようには、お金等をつぎ込んでいない現実があるとはいえ、色々な意味で宇宙探査、開発に投じられる費用等の調達が一筋縄ではいかなくなるのも当然のことだった)
そうしたことから、(史実に比べれば)爪に火を点すような想いをしながら、金星等の探査が行われる事態が起きたのだ。
そして、そのデータを確認した科学者の一人が呟いた。
「金星は、一時は人類の移民先になるやも、と考えられていたが、どう考えても無理だな」
「全くだな。金星の環境が、あそこまで苛酷とはな」
「念のためにレベルでやっていたことが、本当に役立つとはな」
その科学者の呟きを聞いた他の科学者も、相次いで声を挙げた。
実際に金星の探査は、(この世界なりの)大変な苦労が払われることになった。
金星について、入念な地球上からの観測が行われた結果、金星は太陽に近いことから、地球よりも高温であると推測された。
更に金星の大気は極めて濃密であるとも推測されるに至った。
このために、金星を周回する軌道に、まずは人工衛星を投入して、中継拠点及び灯台のような役割を果たさせることにした。
その上で、できる限り高温高圧に耐えられるような観測機器を搭載した上で、実際の金星の地表面にまでもたどり着けるような探査機を、地球から送り出すことになったが。
本当に一筋縄ではいかなかった。
何しろ実際には金星の大気の気圧は、金星の地表面においては約92気圧にも達する。
それこそ920メートルの深海に等しい程の圧力が掛かることになるのだ。
金星の地表面に到達しようとした探査機の多くが、宇宙から何とか金星の地表面に到達しようとするものの、一時間と持たずに圧壊するのもおかしくないどころか、当然と言われる事態を引き起こすのも当然としか言いようが無かった。
そして、その大気の約96%が二酸化炭素であり、温室効果を引き起こす結果、金星の表面温度は約500度に達して鉛が溶ける温度になる。
この時代の技術では、困難な観測になるのも当然だった。
1960年代半ばからすれば、少なからずの未来知見が入っていますが、描写のしやすさ優先ということでご寛恕を。
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