第81章―6
ともかく宇宙開発、探査で何を目指すか、世界の三大国の思惑が完全にバラバラといってよい状況というのは、上里秀勝(及びトラック基地を中心に展開している面々)にしてみれば、それこそ利害調整だけでも一苦労する事態である。
秀勝らは、
「まずは人類の月面到達、有人探査計画を最優先とする。その上で、金星や火星の無人探査計画を、次に優先して、それ以外のこと(具体的には太陽やそれ以外の太陽系の惑星等の無人探査計画、又、人類が宇宙に滞在する宇宙ステーション計画)等は、人類の月面到達後に基本的に行う」
という基本方針を固めて、三大国の政府最上層部を説得した。
それでも、という三大国の政府最上層部には自国でするように、秀勝らは求めた。
(既述だが、それこそ自国の軍事、民生等の目的のために、三大国は独自の宇宙開発拠点を構えている)
だが、これはこれで、自国のロケット打ち上げ等に影響が出るので、中々難航する交渉となり、秀勝の頭痛を酷くさせる一因となったのだ。
そんなこんなの交渉等の果てに。
秀勝の求めに応じて、ケプラーとガリレオは、現時点、1615年時点での宇宙探査の現状のまとめを作る中心として働く羽目になっていた。
「これが仕事だと分かってはいるが、本当に大変だな」
「それこそ観測機器のデータチェック一つとっても大変だからな」
「昔に比べて、計算機等の能力は向上しているが、その一方で観測機器の性能も向上しているからな」
「そして、各国の政府等から、具体的な成果、調査結果を改めてまとめて示せ、と言われてはやらない訳には行かないか」
「金や人、モノを出して貰っている以上、それなりのお返しをしないと、どうにもならん」
「素のデータを渡して、後は宜しく、という訳には行かないか」
「金を出しているパトロン達が、素のデータで分かる程、頭が良い人ばかりなら、科学はもっと発展している。それこそ長年に亘って、誤った天動説を、多くの人がずっと信奉してきたではないか」
「それを言われると、どうにも返す言葉が無いな」
二人はやり取りをするうちに、共に苦笑いをしながら、やり取りをするようになり、更に、その二人のやり取りを聞きながら、データの整理等をしていた科学者の面々までが、苦笑いをし始めた。
「そういえば、地上からの観測でも、それなりの巨大な天体望遠鏡どころか、電波望遠鏡まで建造されて、それによる観測データが蓄積されていって、電波天文学という分野まで、何れは天文学から独立して成立するのでは、という時代が来つつありますね」
二人の会話を聞いた科学者の一人が言った。
「そう言えば、そうだな。更に言えば、そういった観測データを踏まえて、宇宙に始まりはあるのか否か、それが今の天文学では論争になっているな」
「宇宙は定常的なのか、それとも始まりはあるのか、ですか」
「神、造物主の天地創造はあったか否か、という話しになりかねないがな」
「ローマ皇帝陛下万歳ですね。エウドキヤ女帝が、ローマ教皇庁や東方正教会の総主教の方々に目を光らせているお陰で、この問題について、異端論争とかが引き起こされずに済む」
「更に言えば、カリフ万歳にもつながるな。イスラム教の世界でも、この問題については、必ずしも割り切れない信者がいるからな。カリフが、
『天文学はイスラム神学とは無関係だ。天文学の学者に、勝手に論争させておけ』
と内々に言ったことから、超過激な一部の信者以外は、天文学のこの論争に興味を持たなくなった」
ガリレオとケプラーは、しみじみとしたやり取りをし、それを聞いたその場にいた科学者全員が思わざるを得なかった。
宇宙の始まりの大論争は、天地創造論につながりかねない。
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