第81章―1 月へ、更に金星や火星へ
新章の始まりになります。
尚、最初の3話程は少しズレた話で、広橋正之が広橋(上里)愛の養子になった経緯等と、この世界のシェークスピアの話になります。
(考えてみれば、徳川秀忠の庶長子が広橋正之になった経緯を、ナレで完全に済ませていました。
遅ればせながら、この際に描こうと考えた次第です。
又、シェークスピアの話は完全に余談と言われても、仕方のない話になります)
前章で述べた大きな動きが東アジアであった頃、広橋正之は学習院中等部から高等部へと順調に進学していた。
広橋正之は、徳川秀忠と愛妾との間に生まれた子だった。
更に言えば、この秀忠と愛妾の関係を、暫くの間は秀忠の正妻の小督は全く知らないでいて、小督は愛妾が妊娠した直後に、この関係を知ることになったのだ。
そして、(言うまでもないことかもしれないが)小督が、夫の秀忠の愛妾の妊娠を赦す筈が無く、自らの義姉に当たるローマ帝国のエウドキヤ女帝に事情を話したところ、エウドキヤ女帝が小督の為に、その愛妾を密殺しようとする騒動にまでなってしまった。
秀忠にしてみれば、自らの愛妾が妊娠したことが、ここまでの大事になるとは思わぬことで、慌てて愛妾と胎児を守ろう、と自らの知る限りの伝手を頼ることになった。
その伝手の一つになったのが、武田(上里)和子だった。
秀忠の父の徳川家康と、和子の夫の武田義信は、北米共和国内で完全に対立する関係だったが、だからといって、和子にしてみれば、何で小督とエウドキヤ女帝がそこまで怒るのか分からず、義侠心もあって、秀忠の愛妾と胎児の命を守ろう、と動くことになったのだ。
(この辺り、和子の父親の松一の女性関係等から、この頃になると和子がこういった関係に大らかだった、という裏事情も相まってのことだった)
その為に、和子は散々に考えた末に、秀忠の愛妾を胎児ごと、自らの異母弟になる上里清に預けようと考えて働きかけ、清はそれを引き受けることになった。
言うまでもないことだが、上里清はこの頃には日本陸軍の将官にまで出世しているし、上里家は華麗なる閨閥を世界的に築いているといって良い。
だから、上里清の下に秀忠の愛妾が胎児ごと逃げ込めれば、それこそ世界的な大騒動になることを危惧して、さしものエウドキヤ女帝も動けない、と和子は考えたのだ。
そして、清も義侠心から和子の頼みを引き受けた。
そして、望月千代子らが護衛して、秀忠の愛妾は上里清の下に逃げ込めたが。
(尚、清は愛妾を無事に庇護した後、上里勝利にこの件を伝えて、エウドキヤ女帝を諫め、宥めて貰い、愛妾とその子には手を出さない、という一札を手に入れた)
この大騒動は、結果的に秀忠の愛妾にとって、心身に対して大きな負担を掛けることになった。
そのために、
「愛さん、もしもの時はお腹の子をお願いします」
「気弱なことを言わないの。母子揃って元気に育って、小督を見返しなさい」
「できればいいですけど、多分、無理な気が」
そんなやり取りを、歳が近かったこと等から親しくなった、臨月間近で体を弱らせた秀忠の愛妾と当時は上里愛と名乗っていた広橋愛はする事態が起きた。
そして、子どもを救うか、母親を救うか、という事態が、正之が生まれる際には起きてしまった。
その際に秀忠の愛妾は、
「子どもには未来があります。私よりも子どもをお願いします。それから、子どもは出来れば、私の親友の上里愛さんの養子にして下さい。上里愛さんならば、私の子を立派に育ててくれると考えます」
と言い置いた末、子どもを優先させて、自らはあの世へと赴くことになった。
そして、そこまでのことを言われて頼まれた以上、上里愛にその頼みを断る選択肢は無かった。
更に男児が産まれた以上、このことを徳川家に知らせぬ訳には行かず。
(この当時、家光は産まれておらず、秀忠の後継者、つまり徳川家の後継者は正之になる)
それを知らされた家康らは驚くことになった。
その後、徳川家と上里家が話し合った末、正之の養育費を徳川家が負担する代わり、正之は愛の養子になって、徳川家から出ることになった。
そして、正之は広橋正之になったのだ。
ご感想等をお待ちしています。




