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第80章―23

「それで、其方の義姉(広橋愛)は、どのように動いているようなのだ」

「自らに提供される賄賂等は当然に峻拒しており、明帝国に対する正当な申し入れについては、窓口を紹介するというやり取りを、義姉はしているようです。ですが、余りにも申し入れが増えていて、頭が痛いでは済まないようです」

「何故にそんなことに」

 今上(後水尾天皇)陛下と鷹司(上里)美子のやり取りは、更に深まった。


「単純な話で、日本や北米共和国では、賄賂は厳禁が常識になっていますが、それ以外の国々、ローマ帝国等の国内では、賄賂が公然となっていて、魚心あれば水心が当たり前です。だから、そういった国では賄賂が横行していて、その常識を日本にも持ち込んで、便宜を図って貰おうとしているようです」

 美子は、頭を抱え込むように言った。


「容赦なく取り締まる訳には行かないのか」

「相手は、外国企業ですよ。トカゲの尻尾切りで済ませるつもりで、賄賂等の攻勢を仕掛けているようで。それもあって、義姉(の広橋愛)がこの攻勢の矢面に立つ事態が起きているようです。何しろ、義姉は元はオスマン帝国の奴隷ですから、こういった賄賂攻勢には弱いと見られているようですね」

 二人は更なるやり取りをした。


「何とも厄介な話を聞かされるな」

「更に言えば、明帝国の救援活動は、最後には明帝国の収入で清算されるものですが、明帝国国内が荒廃している事情から、当面は日本が明帝国に借款を行い、そのお金で清算することになっています。裏返せば、当面の間は、日本という世界の超大国が支払いを保障しているのです」

「ということは、踏み倒し等の危険が乏しいことになるな」

「だからこそ、外国企業、ローマ帝国等の企業が、明帝国内の救援活動に積極的になっています」

「やれやれ、明帝国の救援は、色々と大変で日本だけで行う訳には行かぬことだが、だからといって、外国企業に好き勝手される訳には行かぬな」

「その通りです」

 今上陛下と美子のやり取りはそこまで進んだ。


「話を戻しますが、ローマ帝国や北米共和国の企業が、明帝国の救援を行いたい、というだけならば、ある程度は日本政府も看過できなくはないです。しかし、その後のことを、義姉も伊達首相も懸念しているようです。実は、明帝国への救援活動を行うことで、ローマ帝国や北米共和国に対する好意を、明帝国内の住民の多くが抱くように努めておき、いざという際には、明帝国で大規模な反日行動を使嗾するのではないか、との懸念があるようです」

「何故にそのような懸念が起きるのだ」

 美子の言葉に、今上陛下は首を傾げながら言った。


「これまでもお伝えして来たでしょう。日本が世界最大の超大国である以上、北米共和国やローマ帝国は日本の足を引っ張ることを全く躊躇いません。世界最大の超大国の日本が苦しむことは、北米共和国やローマ帝国にしてみれば、望ましいことなのです。幾ら皇后陛下が、北米共和国大統領の次女であり、ローマ帝国の皇女であるとはいえ、そういった縁は、国益の前には塵芥のようなモノです」

 美子は、そこで言葉を切った後、更に言葉を続けた。


「それに、明帝国内の多くの住民が、日本等の救援活動に感謝してはいますが、その一方で、この戦争の結果、日本や後金、モンゴルの弟に明皇帝がなるのは屈辱だ、断じて許されることではない、という声が住民の間で高まっているとか。更に言えば、南京市街に対して日本が行った空襲や、北京への後金の攻囲についても、色々と許されないことだ、と叫んでいるとも聞き及びます。それをローマ帝国や北米共和国は悪用するつもりのようです」

「何とも厄介な」

「その通りです」

 二人は深い溜息を吐いた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  前近代なら『これだけ私たちはあなた方の事を配慮しています』と「札束や千両箱」と言う明確な見える形での振る舞いとなるので蔓延る賄賂攻勢、しかし金銭の多寡だけで正道を曲げられる安易さを忌…
[良い点] 聡明な今上に優秀な教師が御進講。論点が整理され政治情勢が非常に分かり易い。 御相伴に預かる読者も分かり易い。 [一言] 一番おいしい部分は紐付き(日本企業限定)にする。 貿易保険という…
[良い点] 政治の近況が分かりやすい。 [気になる点] 明帝国の民間は、現実が見えてなさすぎだろう。史実の清帝国の不平等条約だったら、瞬く間に国家崩壊しているから。 関税を担保に関しても、国民総生産…
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