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第80章―9

 そういった苦悩を日本側は覚えたが、そうはいっても南京を攻略しない訳には行かず、更に日本軍の損害を少しでも迎えるために、後藤基次中将にしても、大量のビラ(伝単)を撒く等の事前の警告を行った上での南京市及びその周辺に対する事前爆撃を行わない訳には行かなかった。


 これに対して、明帝国側は、何とも言いようが無い態度を示した。

 日本軍の警告に従って、南京市から退去しようとする市民を、日本に寝返って味方する敵だと認定して、容赦なく家族諸共に殺戮する態度を示したのだ。

 このために南京市から退去する市民は、ほぼ絶無といって良い状況が引き起こされた。


 そして、日本軍にしてみれば、警告が無視された以上は南京市街に対する事前爆撃を行った結果、

「ほぼ南京市街及びその周辺が、更地になったと言っても過言では無い状況になったか」

「絨毯爆撃を行って1ヘクタール当たり約3トンの爆弾を叩きこみましたから。それこそ強化された鉄筋コンクリートでもない限り、爆撃に耐えられる訳がありません。更に言えば、風向きを考慮して、風上から風下に追い立てるように爆弾の雨を降らせて、長江の河岸に追い込んだところに、トドメの爆撃です。それこそ明帝国軍の兵士と共に多くの市民が焼け死んだ、と推定されます」

 後藤基次中将の嘆きに、真田信繁少将は淡々と答える事態が起きた。


(尚、真田少将が淡々と答えたのは、余りにも自らの心理的衝撃が大きかった為もあった。

 人間は余りにも大きな衝撃を受けた場合、却って平板な態度を執ってしまうのだ)


「効率的といえば効率的なのだろうが。人間として、どうにも許されない攻撃の気がするな」

「南京市街において、砲爆撃に効果的に耐えられる防空壕のようなモノが築かれていたとは考えにくいですからね。更に爆撃方法についても、冷酷さを感じてなりませんな」

 後藤中将と真田少将の会話は続いた。


「この攻撃を立案、実行した黒田長政大佐を私は称賛して、受勲上申を陸軍省なり、参謀本部なりにすべきだろうか。私は、どうにもやりたくない気分なのだが」

「私も同感です。確かに南京市街の攻撃について、大戦果を結果的に挙げたと言えますが。これを称賛して受勲上申をするのは、どうにも気が乗らない話です」

 二人の会話は更に深まった。


 少し先走った話をすれば。

 結局、後藤中将は黒田大佐に対する受勲上申(要するに多大な功績を挙げたので勲章を授与されたいという上申を、陸軍省や参謀本部に対して行うこと)を、この戦争が終わるまですることは無かった。


 黒田大佐に言わせれば、少しでも効率的に明帝国軍に打撃を与えるために、このような作戦を立案実行したのであり、更に実際に多大な戦果を挙げている以上、自分は受勲に値することをしている、という主張になるのだが。

 後藤中将にしてみれば、このようなことで勲章を授与するようなことをしては、それこそ民間人を虐殺する行為を奨励するような事態になり、いわゆる武人の魂を汚すことになるとして、受勲上申を行わないという態度を執ることになったのだ。


 更にこのことをきっかけに、後藤中将と黒田大佐は犬猿の仲になり、係累による後ろ盾が乏しかった後藤中将は、様々な係累を駆使した黒田大佐の攻撃によって、最終的に営門大将での退役を余儀なくされる事態が引き起こされることになる。


 又、この際の後藤中将の判断は何処まで妥当といえるのか、という論争を引き起こすことにもなった。

 確かに明帝国の市民を攻撃してはならない、というのは道義的に正しいが、それによって日本軍の将兵の命が失われても良いというのか、という非難攻撃が起きるのは当然と言え、大論争が結果的に起きてしまったのだ。

 1ヘクタール辺り3トンの爆弾云々というのは、それこそ第二次世界大戦で米軍が日独軍に対して行った戦略爆撃を、私なりに適宜に調査、参考にした上で、これ位の爆撃が当然と私が考慮しました。

 尚、少し後の描写で、鷹司(上里)美子は原爆並みの攻撃と想うことになります。

(それこそ50平方キロの土地に15キロトンの攻撃が加えられたのです)


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― 新着の感想 ―
[良い点]  政治的に正しい判断をした後藤中将が政治的な背景の強い黒田大佐と反目した為に戦後冷や飯を食わされるなんともジレンマめいた結末がリアル(ˊ̱ωˋ̱) [気になる点]  良い点で“リアル”と膝…
[良い点] 日本軍の損害を減らすには、非常に効果的。市街戦をやれば、どんなに装備が優秀でも死傷者が出る。市街地が完全に瓦礫になえば、市街戦は無い。市街戦が無ければ死者もない。 [気になる点] いろいろ…
[気になる点] かなり、後味が悪い攻防戦ですね。 まるで、狩猟の如く、明帝国の軍民を追い込む様よ。 [一言] 南京は、郊外に洪武帝の陵墓が存在していたはずだけど、流石に無事だよね。 宋と唐だったら…
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