第80章―5
そんな風に頭を痛めた末だったが、1615年7月、上海近郊において、陸海軍が協力しての日本軍の上陸作戦が展開されることになった。
「上陸部隊からの連絡です。艦砲射撃による支援は不要とのこと」
「本当に大丈夫なのか」
「上陸地点に明軍は見当たらないとのこと。それに仮に必要であっても、本艦の主砲は不要でしょう」
「確かにそうだな」
上里丈二海軍大将は、連合艦隊旗艦である戦艦「大和」に座上しながら、幕僚と会話を交わした。
「上陸部隊に伝えよ。必要ならば、「大和」の主砲による艦砲射撃を何時でも実施すると」
上里大将は、通信士官にそう命じつつ、改めて「大和」の現状を内心で確認した。
「大和」は気が付けば、艦齢20年を越えており、そろそろ完全退役が考えられる艦齢だった。
だが、その一方で、日本が建造した最後の戦艦ということから、海軍軍人以外からも退役が惜しまれているという現実があった。
(尚、この世界の金剛級戦艦や長門級戦艦は既に完全に退役しており、解体等まで終わっている)
そのために、様々な改装が行われて、延命措置が施されてきた。
例えば、機関の改装、強化が行われた結果、33ノットの高速が「大和」は発揮可能になっていた。
その一方で、主砲射撃の際に爆風等の影響により、どうしてもある程度の故障等が避けられない機銃、機関砲は全て撤去される一方で、新たに対空ミサイル発射装置を備え、それに合わせて電探やソナーの改良型が装備される等の措置が取られており、充分に最新の防空巡洋艦等と伍するだけの対空能力を「大和」は維持しており、対空戦闘においては、対空護衛艦の役目を十二分に果たせる存在になっていた。
「大和」の主砲にしても、搭載している主砲は46センチだが、その砲弾については大重量化を図ること等で威力を増大させており、竣工当時に想定されていた主砲の威力でいえば、51センチ砲並みの威力を有すると謳われるまでに強化されていた。
又、対潜能力の強化等の為に、艦載ヘリコプター6機が、かつて搭載されていた水上機の代わりに大和には搭載されるようになっているのだ。
上里大将は改めて考えざるを得なかった。
「大和」が、この世界において、史上最強の水上戦闘艦なのは間違いない。
北米共和国も、ローマ帝国も、これ程の水上戦闘艦を保有しておらず、最大の水上戦闘艦にしても、40センチ主砲を搭載しているだけだ。
実際にはアリエナイ状況といっても過言では無いが、「大和」と他の水上艦が1対1の戦闘で殴り合えば、「大和」に対抗できるのは、同型艦の「武蔵」だけと謳われるのも当然だ。
だが、その一方で、「大和」が実際の戦場で活躍する場が狭まっていて、本職の海軍軍人程、「大和」というよりも大和型戦艦の予備役編入を叫んでいるのが、何とも言えないことだ。
実際、自分の目からしても、彼らの言うのは正しい。
「大和」の本来の活躍の場は、水上艦隊同士の決戦の場でアリ、「皇軍来訪」以前であれば、その決戦の帰趨で制海覇権を勝者が得ていたのだ。
だが、「皇軍来訪」がもたらした様々な技術進歩が、水上艦隊同士の決戦という場を減少させ、更には制海覇権の帰趨が、それでは決まらない事態を引き起こした結果、「大和」は過去の遺物だ、と本職の海軍軍人に陰口を叩かれる存在に今ではしている。
そういった陰口を少しでも鎮めるために、通信機能が充実していることから、「大和」は連合艦隊旗艦の役目を、同型艦の「武蔵」とほぼ交替で務める事態が引き起こされている。
更に言えば、ローマ帝国や北米共和国の戦艦も、同様の状況にある。
本当に皮肉としか言いようが無い。
そんなことを上里大将は考えざるを得なかった。
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