第79章―15
そこまで突き詰めて考えてしまうと、さしもの伊達政宗首相と言えど、思考の迷路に陥ってしまう。
とはいえ、対明帝国戦争に踏み切らないという選択肢は無い、と伊達首相は考えざるを得ない。
そうしないと、何年先になるかは精確に分からないが、少なくとも10年以内には明帝国の内政が完全に破綻して、日本を含む周辺諸国に経済難民の群れが、どう少なく見積もっても数百万人単位で雪崩れ込む事態が起きる、と日本を含む周辺諸国の上層部を占める面々の殆どが考えている現実がある。
二条昭実内大臣にしても、戦争を明確に終わらせる方法が無いから、対明帝国戦争に反対しているだけで、それがあるならば、対明帝国戦争に反対しないだろう、と伊達首相は考えており、二条内大臣の口振りも、それを肯定するものだ。
更に言えば、そんな数百万人単位の食うに困った経済難民が、周辺諸国に雪崩れ込む等、難民が雪崩れ込んできた周辺諸国にしてみれば悪夢そのものだ。
どう考えても、難民が雪崩れ込んだ国内で大規模な混乱が起きるのは必然的だ。
それをどうやって収めればよいのか。
そんな難民、不法侵入者として殺戮すれば良い、という人もいるが。
それならば、貴方はそんな難民を容赦なく何十人、何百人と殺せるのか、と問いかけたい話だ。
実際問題として、人が人を殺すというのは、様々な道徳的観点から、多くの人が心を壊す事態を引き起こすことなのだ。
それこそ多くの兵士が、戦場で心を壊してしまい、戦後の平和な社会に馴染めず、様々な犯罪を犯す等の事態を引き起こすのが、稀ではないのも当然なのだ。
そういったことまで考えるならば、明帝国内で発生した経済難民が、明帝国外に流出しないように、明帝国に干渉して、様々な改革を行う方が、まだしも妥当だろう。
勿論、その手法が明帝国の現状からして、武力行使によるモノなのはどうにもならないだろう。
それにこのことはもう一つの問題も裏では孕んでいる。
それはローマ帝国対策だ。
仮にも皇后陛下の母国(徳川千江皇后陛下は、ローマ帝国エウドキヤ女帝の養女でもある)を敵視するのか、と様々な方面から叩かれそうだが。
ローマ帝国のエウドキヤ女帝が、「タタールの軛」の悪夢から祖国を解放しようと、モンゴルを敵視しているのは、それこそ世界中に知られている話だ。
そして、モンゴルをローマ帝国が征服した末に、太平洋沿岸に不凍港をローマ帝国が獲得し、そこに大艦隊を配備するというのは、日本にとって悪夢の事態になる。
だから、日本は機先を制して女真を援助して、後金国を建設させ、更にはリンダン・ハーンを様々な手法で援助して、ローマ帝国に対処する為にモンゴル帝国を復興させたのだ。
それと同時に、ユーラシア大陸横断鉄道建設を推進することで、ローマ帝国に対して硬軟織り交ぜた対処を行って、当面のウラル山脈以東のアジアにおける安定を確立しようとしているのに。
明帝国が混乱して、何百万人の経済難民が周辺諸国に流出しては、アジアの安定が完全に崩壊する。
更には、その混乱を鎮めると称して、ローマ帝国軍の東進という悪夢さえ起きかねない。
そうなったら、本当に東アジア大戦、いや、本格的な世界大戦になるだろう。
こうした悪夢の連鎖を抑えるとなると、やはり明帝国と戦争をして、それによって明帝国を変えるという方策を執るしかない。
だが、その戦争が自分達の思惑通りに終われるのか、というと悲観的にならざるを得ない。
最悪は避けられたが、次に悪い事態になっただけになるかもしれない。
伊達首相は、そこまで考えつつも、日本等の将来のことを考える程、やはり対明帝国戦争に日本等は突入するしかない、と考えざるを得なかった。
これで第79章を終えて、次話から第80章になり、対明帝国戦争に突入します。
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