第79章―14
そんな裏事情があった末に、日本国内では対明帝国戦争発動について、表立った反対行動は、少なくとも政府上層部からは起きないことになった。
伊達政宗首相は、こういった情勢から、粛々と対明帝国戦争発動準備を政府、軍に内々に指示して、更に後金国やモンゴルと連携しての戦争準備も進めることになったが。
その一方で、今上(後水尾天皇)陛下の内意を直に聞かされ、又、自らの公設第一秘書を務める広橋愛から、義妹にして実の娘になる鷹司(上里)美子の考えを、又聞きと言う形で聞かされて、何度も改めて考え込むことが増えていた。
「確かに対明帝国戦争発動は止むを得ないが、どうやって終わらせるのか、それを常に念頭に置かない訳には行かないな。今上陛下の説得で、二条昭実内大臣が沈黙したのには助かったが。確かに終わりの見えない戦争を続ける訳には行かない以上、終わりをどうすべきか」
そんな感じで、時々、伊達首相は考え込んでいた。
常識的に考えれば、首都である北京を制圧し、更に副都といえる南京を制圧して、四川省や雲南省までも制圧すれば、それこそ明帝国の四周からの侵攻作戦が実際に行われて、成功しているように主観的にも、客観的にも見える筈だが。
それを明帝国政府の皇帝を始めとする上層部は受け入れるだろうか。
明帝国上層部が受け入れる、とはとても自分は楽観視はできない。
それが、今の伊達首相の考えだった。
もし、受け入れるくらいならば、とうに中華思想を捨てて、日本との対等外交に明は応じただろう。
だが、それこそ日本が保有するジェット機や大和級戦艦や航空母艦、戦車や自走砲等の優れた兵器を、何度も明帝国の外交使節に見せつけても。
「こんなおもちゃ、すぐに我が明帝国は何十倍も優れたモノを質量共に造れるのだ。それが、東夷の小国の日本国王には分からないのか。速やかに日本国王は明帝国に朝貢すべきだ。朝貢を拒む日本を未だに滅ぼそうとしない明皇帝の温情に、何故に日本国王は感泣して朝貢しないのか」
と明の外交使節から、ずっと日本政府が言われ続けていては。
伯母の織田(三条)美子が、
「北京に100メガトン級の水爆を炸裂させないと、明帝国上層部の目は決して覚めない気がするわ」
とかつて吐き捨てるように、自分に言ったのが間違っていない気がして、自分もならない。
北京や南京、更には四川省等を制圧した時点で、明帝国が日本等の諸国との講和条約締結に応じれば良いのだが。
講和に応じなければ、日本等の諸国は戦争を続けざるを得ない。
そして、その戦争の方法も難問になってくる。
本気で中国本土全土占領を、日本等の諸国は目指すべきなのか。
日本等の諸国が、それをやろうと思ってやれないことはないのだ。
何しろ、(メタい話をすれば)NBC兵器を日本は保有しているのだ。
それこそ明帝国が実際には保有していない以上、報復を全く気にすることなく、NBC兵器の反応弾や毒ガス、生物兵器を対明帝国戦争において、日本が容赦なく投入すれば、それこそ中国本土は荒野と化すことになり、漢民族はほぼ絶滅することになって、対明帝国戦争に勝利を日本等は収められるだろう。
だが、それは人としての何か、良心を完全に捨て去る行為になるだろう。
更に考えれば、そういった戦争を一度でもやれば、今後の戦争ではそう言った兵器を使用するのが当たり前になる事態が起きかねない。
国際条約等で縛りを掛けようとしても、それこそ、かつての戦争で使った兵器を使うことの何処が悪いのだ、等の屁理屈が喚かれて、その結果、どの国も疑心暗鬼から、そういった規制に反対することになり、最終的にはそう言った兵器を使用する戦争が当然になるのではないか。
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