第79章―8
余りにも色々と話が飛び、又、逸れすぎることになったが。
ともかく、こういった現状を踏まえた対明帝国戦争の戦略、作戦が、織田信忠海相によって、閣議の場で話された末に、伊達政宗首相の更なる弁舌もあって、この閣議に出席した閣僚全員が、対明帝国戦争開始に同意することになった。
だが、問題が更にあった。
外国から宣戦布告を受けたのならともかく、対明帝国戦争は、日本から明帝国に宣戦布告を行うということになる。
(この世界の)大日本帝国憲法制定以前ならともかく、(この世界の)日本の現状からすれば、今上陛下の裁断無くして、対明帝国への宣戦布告等はできないことになる。
更に言えば、後陽成上皇陛下が散々に引っ掻き回した事態が、最上層部に至る程、日本国内で悪夢のように残っている現実がある。
こうしたことから、伊達政宗首相は悩んだ末に、鷹司(上里)美子尚侍に対明帝国戦争発動についての今上陛下への口添えを依頼する事態になった。
さしもの鷹司(上里)美子も、半目になって従兄である伊達首相とやり取りせざるを得なかった。
「何で貴族院議員でもない年少の私が、今上陛下への口添えをしないといけないのですか」
「いやあ、こういった場合、今上陛下を最も動かせる人に頼むのは当然だろう」
美子の言葉に、政宗は韜晦しながら答えた。
「断固、お断りします。私は兄二人を戦争で失ったのですよ。それに、言わずもがなですが、私の身内の何人が戦争で亡くなったと考えているのですか。それなのに、戦争をするように今上陛下に私が助言しろというのですか」
美子は、実際に涙を浮かべながら、政宗に反論した。
実際に美子の言葉に嘘は無かった。
兄妹仲が微妙だったとはいえど、美子の異母兄になる上里克博と隆は、対女真戦争で戦死(細かく言うと、隆は殉職)している。
又、美子の実の母方の親族は、実母以外全員が戦争の為に殺されたのだ。
(尚、美子は、自らの実の母方親族は、オスマン帝国対サファヴィー朝戦争の際に殺されたと信じているが、真実はローマ帝国復興戦争後のスンニ派過激派の活動によって殺されている。
だが、どちらにしても戦争によって、母方親族を美子が失ったのは間違いない)
更に、美子と血はつながっていないが、美子の義理の祖母といえる永賢尼の夫サクチャイも、ポルトガルの傭兵奴隷の身に堕ちた末に、日本対ポルトガル戦争の過程で起きたマラッカ攻略戦の際に美子の実祖父になる上里松一が安楽死させる事態が起きている。
そして、美子が生まれる前のことになるが、(細かく言えば違うのだが)美子の伯母二人(美子と和子)の姉妹喧嘩を発端として北米独立戦争が起きて、そのために何人の日本人や日系人がその戦争の際に戦死したことか。
どう少なく見積もっても、その戦争の際に数万人を越える戦死者が出たのは間違いないのだ。
そういった諸々の事を考える程、美子は対明帝国戦争開戦に反対せざるを得なかった。
だが、政宗は怜悧に美子に言った。
「それならば、最悪の場合、数百万人の明帝国からの難民が日本に押し寄せかねないのを、日本政府は黙って見過ごすことになるが、それは正しいのか」
「正しいとは言い難い、と私は考えます」
美子はそう言わざるを得なかった。
美子とて、養女とはいえ五摂家の一角を占める九条家の娘なのだ。
更に鷹司家の次期当主になる鷹司信尚の正妻でもある。
高貴なる者の義務を、美子は当然に弁えている。
そして、その義務から考えると、美子はそう言わざるを得ない。
「それならば、今上陛下に口添えをしてほしい。首相として私は責任を負う」
「分かりました。九尾の狐として働けというのですね」
「そうだ」
政宗と美子はやり取りをした。
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