第79章―2
宇喜多秀家副首相は、毛利輝元外相の説明を聞きながら、内心で呟いた。
本当に茶番だ、既に結論は出ているも同然だが、そうは言っても、閣議で閣僚の総意を確認したという形式を執らざるを得ないとは。
日本の内閣制度だが、首相が圧倒的に強い内閣制度である。
(名目上に近いが)今上陛下が指名した首相候補を、国会、衆議院と貴族院が承認して、それで首相が今上陛下によって任命される。
更にその首相が閣僚を任命して、更に閣僚の任免権も握るのだ。
だから、首相は意に沿わない行動を執った閣僚を何時でも罷免できる。
だが、現実には色々な事情から、そうはいかない。
何しろ衆議院議員選挙では中選挙区制が採用されている。
貴族院議員に至っては、三位以上は終身、四位と五位は互選で貴族院議員となっており、それこそ一部の有力議員にしてみれば、離党どころか、党分裂が余り躊躇われる行動では無いといえるのだ。
こうした背景が、伊達政宗首相の丁寧な行動の原因になっている。
この場にいる閣僚の殆どが、明帝国の現状から、何らかの行動を執らざるを得ない、と考えてはいる。
だが、それによる様々なことを考える程、自らは口を開くのを躊躇う現実がある。
だから、この閣議の場で口を開かないまでも、殆どの閣僚が閣議では同意した、という形を遺したい、と伊達首相は考えているのだ。
後々で問題が起きないように。
そうしないと後から言っていない、同意していない等と背中から撃つ可能性すらあるからだ。
それ程に後々で、この閣議の内容は色々と問題になりかねない要素を含んでいる。
そう、これは「皇軍来訪」以降どころか、見ようによっては古代の百済救援戦争以来の、日本からの本格的な敵国の首都を目指す対外戦争という事態の準備と言えるからだ。
「皇軍来訪」から暫くの間、日本は対ポルトガル、スペイン戦争を大規模に遂行したが、それはあくまでも植民地獲得が目的で、ポルトガルやスペインの首都占領、本国征服といったことは考えられもしていない戦争だった。
その後の北米独立戦争は、北米植民地が独立を求めたことから起きた戦争と言えるし、対建州女直戦争は、確かに10万という大軍を動員して行った戦争ではあるが、少なくとも表向きは懲罰戦争であって、実際にはそれなりの駐留軍が残ることにはなったが、征服を目指して積極的に起こした戦争ではない。
だが、今日の閣議で話す内容の戦争は違う。
明帝国の首都北京を目指そうという征服戦争を行おうというのだ。
それも、日本単独ではなく、後金国やモンゴル帝国の援けまで受けた上でだ。
本来ならば、こういった戦争をするならば、日本の同盟国の一つである琉球国にも声を掛けるべきかもしれないが、敢えて外されている。
具体的な戦争計画が完成した段階で、琉球国には事実上の事後承諾が求められる予定だ。
何しろ琉球国内は、それなり以上に民主化、立憲君主国化が、日本等の影響から進んでいるのだが、それが皮肉なことに反日の輿論を高め、反動から親中派が勢力を増しつつある現実がある。
下手に対明戦争のことを、琉球国政府に知らせては、明帝国政府に内報される等の妨害活動が、親中派が強い琉球国政府によって行われる可能性が高い。
だから、具体的な戦争計画が完成した後で、この件を日本は琉球王国に知らせるのだ。
既成事実を突きつけた上で琉球国政府に知らせるというのは、却って反発を高める危険が極めて高いが、その方がマシと伊達首相は考えたし、自分や毛利外相も同意した。
(後、自分なりに考えれば、伊達首相としては叔母の九条敬子らへの配慮もあるのだろう。
九条敬子の養親は、国頭親方家という縁があるからだ。
本当に難儀なことだ)
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