第78章―16
さて、ジェームズ1世がエリザベス1世の後継者として国王に即位したとはいえ、本来から言えば、それより上位の王位継承権を持つ者が複数いたのが、現実だった。
それでも、ジェームズ1世の即位をロバート・セシルらが推進して、それにエリザベス1世が同意したのは、ジェームズ1世が既にスコットランド王であり、それなりの力を持っていたことが大きかった。
単に王位継承権が上位だから、という理由でその者をエリザベス1世が次期国王に指名しては、イングランドの国内外に乱れが生じると懸念されたことから、ジェームズ1世が即位したのだ。
だが、このことは思わぬ大問題を引き起こした。
既述だが、(この世界の)カトリック教会はイタリア以外の所領について、東西教会の合同への反発等から、積極的に在地の国王や皇帝に寄進していた。
そして、これは当然のことながら、在地の国王や皇帝がカトリック信仰なのが大前提だった。
更に言えば、ジェームズ1世はイングランド王に即位する前はカトリック信仰であり、イングランド国王は英国国教会の長であることから、英国国教会の信徒に改宗する事態が起きたのだ。
この為にスコットランドのカトリック教会がスコットランド王ジェームズ1世に寄進した所領の地位が大問題になった。
カトリック教会は、ジェームズ1世に対してカトリック信仰から英国国教会に改宗するのなら、所領をカトリック教会に返還するように求めた。
これに対して、ジェームズ1世は、一度、寄進を受けた以上は返還しないと突っぱねたのだが、このことはカトリック教会、更にはその背後のローマ帝国の憤激を引き起こした。
ジェームズ1世は、北欧諸国の前例から、カトリック教会やローマ帝国が怒っても、口先で済むだろうと高を括っていたのだが。
北欧諸国とジェームズ1世では立場が全然違う。
北欧諸国が、カトリック教会領を自らのモノにしたのは、それこそ東西教会合同前であるのに対し、ジェームズ1世が、カトリック教会領を自らのモノにしたのは、東西教会合同後だ。
しかも、カトリックの信徒だからと言う理由で寄進したのに、それを受け取った後で英国国教徒にジェームズ1世が改宗しては。
カトリック教会やローマ帝国の論理からすれば、カトリック以外に改宗した以上は、カトリック教会に所領を返すのが筋だ、という論理になる。
ジェームズ1世の態度に対しては、最終的にはローマ帝国政府がフランスに陸海空軍を大規模に集結させ、イングランド侵攻をほのめかす事態にまでこじれた。
この事態になってから、慌ててジェームズ1世はカトリック教会に対して、旧カトリック教会領の返還を申し出たが。
これはこれで、イングランド国内からジェームズ1世の態度は弱腰だ、という非難が巻き起こることになった。
ああ言えばこう言うに近いが、そんな態度をジェームズ1世が執るのなら、何故に速やかにカトリック教会に旧カトリック教会領を返還しなかったのか、追い詰められてから屈服するのは、更に屈辱的だという批判である。
ここで厄介だったのは、ジェームズ1世の心情としては、英国国教徒になったのはイングランド王に即位するための方便で、本音としてはカトリック信仰を維持したかったことである。
この時のジェームズ1世にしてみれば、すぐにカトリック教会に旧カトリック教会領を返還しては、カトリック信徒の地位を完全に捨て去ろうとしているようにも思えて、踏ん切りがつかなかったのだ。
勿論、自らの収入増という側面もある。
それがこの件では、結果的には完全に裏目、裏目になったことについて、ジェームズ1世にしてみれば、臍を嚙むような想いがしてならない事態という事になった。
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