第78章―2
そういった観点もあって立案されたのが、ユーラシア大陸横断鉄道建設構想だった。
日本の京からポルトガルのリスボンまで、細かいことを言えば、途中で鉄道連絡船等を使うことになるだろうが、鉄路で結ぼうという一大構想だった。
この大構想には、それなり以上のメリットがあった。
まず、ローマ帝国の事情から述べるならば。
ローマ帝国のシベリア探査、植民地化は、既述だが北極海航路から、更にレナ河等の北極海へ流れ込む河川を使った水路、及びそれに関連する連水陸路を基本的に活用して行われている。
だが、幾ら砕氷船がかなり進歩している(ローマ帝国では、とうとう原子力砕氷船の建造までも、日本や北米共和国の様々な技術支援を受けて行う時代になっている)とはいえ、北極海航路は相変わらず夏の一時期しか通航不能と言っても過言では無く、そういった事情からシベリアの植民地化は中々進んでいないという現実があった。
だが、ユーラシア大陸横断鉄道が建設されて、更に完成すれば、それを活用してシベリアの植民地化が大いに進捗することが、ローマ帝国にとって期待できるのだ。
次に日本や後金国、モンゴル帝国の事情を述べるならば。
ローマ帝国との間で後金国やモンゴル帝国が戦争、武力紛争が起きた際には、ユーラシア大陸横断鉄道を活用することによって、日本が速やかに様々な支援を容易に行うことができるようになる、と考えられていた。
勿論、1本の鉄道に支援、補給の大半を依存するのは危険極まりないことなのだが、それを言い出したら、ローマ帝国も同じ弱点を抱えていると言っても過言では無い。
そして、それをお互いに了解することで、ローマ帝国と後金国、モンゴル帝国間の本格的な大戦争が避けられるのでは、ということまでも考えられるようになっていた。
更に明帝国本土への介入を行った際等に、このユーラシア大陸横断鉄道は役立つとも、この三国政府の上層部の間で考えられている現実があった。
明帝国が叛乱等で混乱した場合、周辺諸国は何らかの介入をせねばならない、その介入支援を行うのにユーラシア大陸横断鉄道は役立つ、と三国政府の上層部は考えていたのだ。
そして、ローマ帝国の西、欧州諸国の事情である。
「皇軍来訪」からの日本の大発展。
更に日本の植民地だった北米植民地の独立戦争による北米共和国の成立。
それから起きた様々な影響によって、ローマ帝国の大復興という事態まであった。
それによって生じた日本や日系諸国から持ち込まれた様々なモノ、更に軍事的な脅威は、欧州諸国に一大衝撃を引き起こし、政治から経済から、様々な大改革を欧州諸国に強いることになった。
だが、大改革を行おうとすればするほど、守旧派、保守派が意固地になるのは、どうしても避けられない話で、内乱寸前にまで至った国が欧州では少なからずあった。
そういった際に、中間派、穏健派を改革派に引き寄せて、守旧派、保守派の力を弱めようとするならば、どうしても実利を改革派は撒かざるを得ない。
ユーラシア大陸横断鉄道建設という大イベントは、大きな実利をもたらすものだった。
何しろ人や物がまずは建設で動き、更に完成後は鉄道が動くことで動き続けるからだ。
更に言えば、鉄道の建設、運行といったことは、改革派でなくては出来ないと言っても過言では無い。
だから、ユーラシア大陸横断鉄道建設は、改革派にとって大きな利点となり、国の様々な改革を進める上で大いに役立つと、多くの欧州諸国の政府最上層部において皮算用が為されることになった。
「17世紀という時代に合わせたローマ街道の大規模な復活」
というアピールが、フランスやスペインで行われる等、本当に一大盛事となった。
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