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第77章―17

 とはいえ、皮肉の飛ばしあいにも限度がある。

 鷹司信房は、鷹司(上里)美子の言葉に最終的には同意せざるを得なかった。


 そして、ほぼその足で、美子は自らの叔父になる二条昭実の下に赴いた。

(美子は九条兼孝夫妻の養女であり、昭実は兼孝の実弟である以上、美子にしてみれば叔父になる)


「急に訪ねてくるとは何事かな」

「単刀直入に申します。叔父上に内大臣を引き受けて頂きたい、と考えて自ら参りました」

「確かに、それが適当だろうな。悦んで引き受けよう」

「理由も聞かずに受けられるとは」

 昭実と美子は、率直なやり取りをした。


「腹を割って話させて貰うが、今の一条家の当主は幼いし、近衛家の当主は酒浸りだ。そうなると、自分が内大臣を務めるしかあるまい。儂が内大臣ならば、伊達政宗と言えども首相になっても、宮中に介入できまい。第一、そうしないと、政宗が第一秘書の広橋愛を使って、お前を操って、宮中を動かそうとしていると見られかねないだろう」

「話が早くて助かります。私もそれを危惧しています」

 二人は、更に腹を割った話し合いをした。


「全く。近衛信尹がしゃんとしていれば良かったのだが。娘の不祥事、密通沙汰で酒浸りらしいな」

「はい、私も言いたくないですが。信尹殿の娘には、本当に困ったものです」

 二人は少し声を潜めて、話し合わざるを得なかった。


 それこそ、この時の昭実が何処まで真実を知っているのかは、ともかくとして。

 美子の下には、天皇の忍びの磐子から、信尹の娘の密通が証拠を交えて届く有様だ。

 近衛信尹は息子に恵まれず、近衛家の跡取りとして、今上(後水尾天皇)陛下の同父母弟になる信尋を婿養子として迎えたのだが。


 肝心の娘が、自分より年下の信尋と気が合わないというより、奔放極まりない性格で、複数の男を隠れた愛人にして、密通しているのだ。

 信尋はまだ16歳だが、完全に腹に据えかねていて、妻を南極送りにしてほしい、と実兄の今上(後水尾天皇)陛下に訴えるまでに至っている。


 とはいえ、実際にそんなことをしては、完全に近衛家内の醜聞が、世間に完全に広まってしまう。

 それを避けようと、父の信尹は娘を何度もたしなめたが、年下の男との結婚を私に無理強いした父が悪い、と娘は完全に逆恨みしていて、父の話を聞かないとか。

 その心労から、信尹は酒浸りの状況にあるらしい。


 更に美子が勘繰り過ぎ、と言われようとも考えることがあった。

 近衛信尹の娘の浮気騒動だが、私に対する当てつけ、嫉妬心がある気までもしてならない。

 本来からすれば、近衛信尹の娘は私よりも尚侍に相応しい存在だからだ。


(何しろ近衛信尹の実の娘なのだ。

 美子が九条兼孝の養女という縁から尚侍になったとはいえ、本来からすればオスマン帝国人の女奴隷だった広橋愛の実の娘であることを考えれば、九条兼孝の養女になる事さえ烏滸がましく、尚侍さえも破格の処遇と言われても、美子は当然なのだ。


 だが、様々な事情が絡み合った末に、美子は鷹司信尚の正室になり、更に尚侍になって、精神的なモノとはいえ、今上(後水尾天皇)陛下の寵妃と陰で言われるようになっている。

 更に才能や人徳等を言えば、美子の方が近衛信尹の娘を遥かに上回っている。

 そうしたことから、美子の方が近衛信尹の娘よりも格上だと、(公家)社会では完全に見られている現実が起きているのだ)


 そういった事情が裏ではあるとはいえ、美子と言えども、流石に叔父の二条昭実の前で自分の考えを口には出せない。

 だが、二条昭実の方が無言の内に察していたようだ。


「近衛家の事情を表沙汰にしても、誰も得をしない。内々のことにせねばな。私が内大臣を務めよう」

「有難うございます」

 美子は頭を下げた。

 近衛信尹の娘の密通沙汰ですが、史実でもあったことで、亡くなる前の徳川家康までが仲介に駆り出された末、近衛信尋夫妻が終生完全別居することで落着したとか。

(本来ならば、離婚するところですが、信尋が婿養子として近衛家を継いだ関係上、離婚できなかった)

 この世界で、近衛信尹が酒浸りになったのは、娘の密通沙汰からということでお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 婿養子は大変ですね。
[良い点]  非常においたわしい事情な近衛家の内情( ;ω; )そりゃメンタルやられるワ、つーか書かれてる内容が昼ドラや悪徳令嬢モノのようでなんとも生々しー、この世界にも“なろう”みたいなフリーの投稿…
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