第77章―11
そういった状況から、オスマン帝国も中央アジアのトルコ系民族に対し、リンダン・ハーンと共闘してのローマ帝国の東進阻止を、裏では使嗾している現実があった。
こういった背景から、後金国やオスマン帝国から、リンダン・ハーンには武器等を始めとする様々な支援が対ローマ帝国の為に行われた結果として、リンダン・ハーンの勢力は、モンゴルをほぼ再統一した末に、西方ではアラル海にまで一部が達し、又、チベットへの侵攻を策するのでは、という状況が1615年には引き起こされていた。
ユーラシア横断鉄道という大プロジェクトがぶち上げられた結果、ローマ帝国とリンダン・ハーンの勢力が中央アジアを中心とする地域で直にぶつかる、武力衝突に至るという状況は、お互いに理性を持って躊躇う状況に現況ではある。
だが、全く油断が出来ない状況に、中央アジアがあるのは間違いなかった。
更に厄介なことが起こっていると言えるのが、明本国の情勢だった。
「皇軍来訪」に伴う史実以上の大規模な倭寇の跳梁、更に日本というか、皇軍知識により史実より格段に進んだ阿片系麻薬の汚染は、明本国に襲い掛かった。
流石にヘロインや高純度モルヒネは明本国内で製造できなかったが、阿片の原料となるケシ栽培が明本国内で行われている以上、ある程度の知識等があれば、低純度のモルヒネは明本国でも製造できたのだ。
そして、アヘンや低純度のモルヒネは、明本国内で大量に蔓延する事態が起きた。
これは明本国の治安等の大幅な悪化を引き起こした。
具体的には、流賊が明本国内で横行し、それこそ明の支配が及ばない地域が現れるようになっていた。
(尚、日本及び日系諸国、更にその知識に触れた諸国では、阿片系麻薬の害が広く知られた結果、厳重な管理の上で、基本的に医療目的のみでの生産や使用が阿片系麻薬については行われている)
そして、それが明本国内で止まっている限りは、内政不干渉を御題目として、日本や周辺諸国は見て見ぬふりを決め込むつもりだったが。
明本国内の混乱は酷くなる一方で、それこそ中国史上、よくあったことだが、国内の叛乱から王朝交代という事態が起きるのでは、という懸念が起き出した。
そうなった場合、どうなるか。
この当時の明本国政府の統治能力は低下しており、正確な人口数さえも推計せねばならなかったが、日本等では最大で1億5000万人、最小で見積もっても1億人は超えると推計されていた。
そして、最近の世界の技術進歩は、それこそジェット旅客機が世界を飛び交うようになっており、機帆船でさえも完全に旧式化している。
そうした状況で、人口1億人を超える超大国が大混乱に陥り、その一部が難民と化したら、その難民は容易に国境という壁を越え、更には海を渡って日本等にまで流れ込むだろう。
そうなったら、明本国の1パーセントが難民として溢れ出しただけでも、百万人以上の人の群れが、日本を始めとする周辺諸国に雪崩れ込む事態が起きてしまうのだ。
そうした事態が起きれば、難民が雪崩れ込んだ国は大混乱に陥るだろう。
そういった難民は速やかに明本国に送り返せば良い、と言われるだろうが、その費用等は誰が負担することになるだろうか。
更に戦乱に明け暮れていて、故郷に送り返したら、どう見ても餓死等が必至の難民を送り返すのは、それこそ人としての道に反するのではないか、という主張まで為されている。
(それでも、それは自己責任だ、難民等は死んで当然なのだ、と言う人がいそうですが、それは人としてどうなのか、と私は考えます)
そうしたことから、明への不干渉政策を取りやめて、日本本国等は明への介入を、内々で検討せざるを得なくなりつつあった。
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