第77章―10
そうしたことから、伊達政宗は労農党内の一部から異論はあったが、労農党だけで単独過半数を得ているにも関わらず、敢えて中国保守党に連立を組むことを申し出た。
連立を組むとなると、閣僚等のポストの一部を中国保守党に委ねざるを得ない。
そして、閣僚等のポストには利権等の旨味がある以上、何故に他党に一部を譲るのか、という党内の反発が起きて当然なのだ。
だが、そういった労農党内の異論を、政宗は次のように内々で言って宥めた。
「この際、「保守合同」の芽を潰すためにも、中国保守党を我々の味方、与党に引き込むべきだ。中国保守党が引き続き与党に止まれるとなれば、利権に目が眩んで、中国保守党は我々に転ぶだろう。そうなったら、野党に転落した保守党の衆議院議員の多くが裏切り者として、中国保守党を敵視するようになり、「保守合同」の芽は完全に潰れることになる」
「確かに」
多くの労農党の衆議院議員が、政宗の論理には肯かざるを得ない。
今回の衆議院議員総選挙の結果、保守党が野党に転落することは確定している。
そうした中で、中国保守党が与党の枠に入っては、保守党の衆議院議員の多くが、中国保守党を裏切り者として敵視するのは当然だ。
「それに、こちらにもそれなりの筋、理由が立つからな」
政宗は悪い笑みを浮かべながら、宇喜多秀家ら、子飼いの一部の衆議院議員らには続けて言った。
「どんな理由ですか」
「日本の外交に基本的に変更はない、というのを明らかにできるということだ」
「言われれば、その通りですな。それに色々ときな臭い状況に、世界はありますし」
「だろう」
政宗はやり取りをした。
後の章で詳細を描くが、ローマ帝国の東進は完全に進んでおり、(史実の名で描くが)ペトロパブロフスク=カムチャッキーを太平洋に面した不凍港としてローマ帝国は建設を行う等、シベリアの大地の殆どを自国領と徐々にいえるようになっている状況だった。
そして、そのシベリアの大地の征服には北極海航路から、更に北極海に注いでいるオビ川、エニセイ川、レナ川等の水系、更にそれらを陸路でつなぐ連水陸路が主に活用されている。
そういったローマ帝国の東進を、表向きは日本は看過している。
何しろ今上(後水尾天皇)陛下の皇后陛下、徳川千江はローマ帝国のエウドキヤ女帝陛下御夫妻の間の養女でもあるからだ。
皇后陛下の実家といえるローマ帝国を日本政府として公然と敵視する等が出来よう筈がない。
だが、日本政府は、ローマ帝国の東進を裏では警戒しており、満洲(及び沿海州)を領土としている後金国を太平洋条約機構の一員として同盟国としている。
又、オスマン帝国も従前からの日本の同盟国であり、太平洋条約機構に加盟している。
そして、後金国とチンギス・ハーンの正統な末裔でありチャハル部を率いるリンダン・ハーンは、同盟を結んでいる。
(細かいことを言えば、後金国の王であるヌルハチを、リンダン・ハーンはアカ(兄)として奉じるという形を執っており、後金国がやや優位な同盟関係であった)
リンダン・ハーンはローマ帝国の東進を警戒しており、モンゴルから中央アジアのモンゴル系、トルコ系民族を糾合して対抗しようとしているが、その背後には後金国がいるのは世界中で公知の事実と言って良い状況だった。
更にモンゴル系民族ではチベット仏教徒、トルコ系民族ではイスラム教スンニ派信徒が多数を占めているのだが。
多くのイスラム教スンニ派信徒が、表面上は和平関係にあるとはいえ、カリフが治めるオスマン帝国を攻撃し、首都を移転させたローマ帝国を内心では宿敵視している。
だから、敵の敵は味方の論理で、リンダン・ハーンには彼らの支持も集まっていた。
この後、少し1615年現在の日本及びアジアの情勢に関する説明話になります。
ご感想等をお待ちしています。




