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プロローグ―2

 伯母の織田(三条)美子の下を辞去した翌日から数日を掛けて、鷹司(上里)美子は尚侍の権限を最大限に活用して、伯母の言葉の裏付けを取ることに努めた。

 そして、その結果に鷹司(上里)美子は呆然とせざるを得なかった。

「そんなことはアリエナイ」

 鷹司(上里)美子は、そう呟きつつ、暫く涙に暮れざるを得なかった。


 後奈良天皇陛下や正親町天皇陛下は、確かに「皇軍資料」が記した時期の頃に崩御されている。

 他の摂家の方々も同様だ。

 他に自らが知る人はどうなのか、鷹司(上里)美子は自分なりに何人か、探してみた。

 とはいえ、「皇軍資料」では著名でも、この世界では無名の人も多いし、逆も又、然りだ。

 更に言えば、史実通りに結婚したり、関係を持ったりしていない人も多い。


 例えば、織田信長はどうだったのか、鷹司(上里)美子なりに調べてみた。

「皇軍資料」では、織田信長は美濃の斎藤道三の娘と結婚したが、その間には子どもは産まれず、多数の愛妾との間に子を作ったらしい。

 だが、この世界では伯母の美子と結婚し、その間に子を多数、作っている。


 他に武田義信にしても、「皇軍資料」では今川義元の娘と結婚しているが、この世界では伯母の和子と結婚している等、別の女性と結婚したり、関係を持ったりしている例が多数ある。

 

 そうなってくると、「皇軍資料」ではその子孫が何時、亡くなるのか、全く分からなくなる。


 だが、その一方で、史実通りの関係から産まれている人もそれなりにいる。

 今上(後水尾天皇)陛下や鷹司信尚は、そういったうちの一人だった。

 そして、「皇軍資料」の記すところにいれば、鷹司信尚は1621年に薨去している。

 その一方で、今上(後水尾天皇)陛下は1680年まで長命を保っている。


 美子は一人で考え込まざるを得なかった。

 私が何時、死ぬのかは、「皇軍資料」に載っていない以上は分からない。

 そもそも私は「皇軍来訪」によって産まれた異分子なのだ。

 そして、当然のことながら、私達夫婦の子が、何時まで生きるかも分からない。


 だが、夫は1621年に亡くなる公算が極めて高い。

 夫が亡くなってから、今上陛下の求婚に応じて、再婚したら、更に自分も今上陛下と同様に長命を保てば、50年以上も今上陛下の傍に妻として居ることになる訳か。

 成程、今上陛下が、私の夫が死ぬのを待つことにした訳だ。

 今上陛下は別に手を下さず、時が来るのを待てばよいのだ。

 それからでも、私と50年は寄り添えるだろう、と今上陛下は割り切られたのだ。


 勿論、陛下の求婚を私が断れない訳ではない。

 だが、色々な意味でそれは困難だろう。

 私は養女とは言え、摂家の一つである九条家の娘なのだ。

 九条家の娘である私を中宮にしたい、と今上陛下が言い出せば、摂家の殆どは同意するだろうし、外国出身の皇后に反発している国粋派も、日本人の中宮を迎えるのは喜ばしい、というだろう。

 そうなっては、私が嫌がっても、事実上は強制的に入内、結婚せざるを得ない。

 更に言えば、本来ならば大反対する皇后陛下も、私を御姉さまと慕う現実がある。

 御姉さまが中宮になられるのなら、構いません、と皇后陛下は言うだろう。


 そこまで、考えが進む一方で、美子は改めて考えた。

 夫が若くして死ぬ運命なのを、義父の鷹司信房は知っているのだろうか。

 鷹司信房は内大臣を務めていたことがある以上、「皇軍資料」の存在や内容を知っている筈だ。


 夫を外し、義父と私は話し合う必要がある。

 もし、義父が息子の早世を知っていたら、私はどういうべきだろう。

 いや、義父のことだ。

 違う流れをたどった歴史等は知らなくてよい、として触れていない気がする。

 それならば、私は義父に息子の早世を伝えることになる。

 ちなみに1621年となると、史実通りならば、近衛家と一条家の当主は今上(後水尾天皇)陛下の弟、二条家は二条康道が当主ですが14歳、事実上の摂家の当主が九条兼孝と鷹司信房の二人では、今上(後水尾天皇)陛下の主張を食い止められない公算が大きいのです。

(更に二人とも良かれと考えて、今上(後水尾天皇)陛下と美子の入内に賛同しかねない)

 美子が頭を抱える背景には、こういった裏事情があります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あちゃー、忘れておりました。美子さんは九条家の養女。完全に五摂家の身内。 公家には「貞女は二夫に見えず」なんて道徳は無い(そういえば、大河で出てきた藤原実資さんの二番目の奥様、婉子女王(え…
[良い点] 「そんなことはアリエナイ」  鷹司(上里)美子は、そう呟きつつ、暫く涙に暮れざるを得なかった。  (*´-`)この場面だけで美子さんが旦那さんを愛している事が伝わって、読んでる読者の胸も…
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